元受付嬢CEOの視線

「マスク論争」に元受付嬢が一家言 重い花粉症でも私は着用を許されなかった

橋本真里子
橋本真里子

 マスクを着用したままの顧客対応は是か非か―。近年、インフルエンザ流行や花粉の飛散量が増える時期にたびたび話題にのぼる「マスク論争」。今回はビジネス上のマスク着用について、着用を許されずつらい経験をした元受付嬢の視点で、また、会社の顔となった経営者の目線で、私の考えを述べたいと思います。(橋本真里子)

 みなさん、特定の状況を想定せずに思い浮かべてみてください。マスクをしている人と、していない人、どちらに良い印象を持ちますか。

「そりゃマスクしていないほうが良い」

「いや、風邪をひいている人にはマスクはしてほしい」

 きっと答えは人によって分かれますね。しかし、私はこの質問の答えにすべてが詰まっている気がします。私個人としてはどちらかと問われたら、マスクしている人にあまり良い印象を抱きません。また、お店などの接客担当者のマスク着用「否定派」です。

マスク着用の是非 業務中は「何を提供するか」による

 仕事中にむしろ着用すべき人たちもいると思います。飲食店の厨房で働く人や卸業者など食材に直接的に触れる人たちです。マスク着用が業務上の規則に組み込まれている場合もあるでしょう。

 一方、同じ飲食店でも、ホールで働く人たちを想像してみてください。マスクをしてホールに立っている人を見たことがありますか?

 厨房で働く人と、ホールで働く人…それぞれは「提供しているもの」が異なります。厨房で働く人は、厨房を清潔に保ち、衛生的に調理した食材を提供することが仕事です。ホールで働く人は、お客様とコミュニケーションをとり、注文内容を正確に厨房に伝える、お客様に快適に食事してもらうために笑顔やホスピタリティを提供しています。

 つまり、この「提供するもの」の違いがマスク着用の有無に関わっているのです。

 前回も触れましたが、私は受付嬢をしていた頃、マスクを着用して働くことを禁じられていました。ほぼ毎日ステロイド剤を服用するほどのひどい花粉症で、毎年春は、来訪されるお客様が外から持ち込む花粉に晒され、とても苦労しました。それでも、私たち受付嬢は「会社の印象を提供」するのが仕事ですから、その「印象」を象徴する顔をマスクで覆うことはできません。

 私個人としても、受付嬢がマスクを着用して接客することには違和感を覚えます。受付業務中は薬などで症状を抑えるよう努めていました。

 飲食店のホールスタッフも受付嬢と同様に、お店の「印象を提供」し、お客様との円滑なコミュニケーションが業務の一端と考えられます。そのため、マスクをして働くホールスタッフはあまり見かけないのです。

接客でマスク着用 やるなら徹底すべし

 適材適所の役割や格好がある。このように考えてマスクを着用するのであれば、「会社の考え」として徹底してやらなければいけないと思います。お店や銀行、役所によっては、訪問者に対して「感染病予防のため、マスクをしたまま業務しております」などと張り紙をしているところもあるようです。誰のための予防かははっきりしませんが、お客様からお金をいただく、あるいは住民のための手続きをするシチュエーションと考えれば、最終的には、訪問者のための施策であると推測します。

 しかし、このような記載をするのであれば、スタッフ全員が徹底してマスクを着用するべきだと思います。マスク着用者がまばらで徹底されていないと、訪問者への配慮という意図が薄れ、働く人に対する印象にも影響が出てくるのではないでしょうか。

ビジネス全般で「マスクNG」 そのワケ

 さらに私は、接客業に限らず、ビジネスシーン全般でのマスク着用にも否定的です。これは、具体的なシーンを想像していただければ少しご理解いただけるのではないでしょうか。

 会社で役員に就いている人で日常的にマスクを着用している人が周りにいるでしょうか。(少なくとも、私が受付嬢時代に勤務していた会社内では見たことがありません。)極端な例かもしれませんが、日本の首相がマスクをして外交しているシーンを見たことがありますか? 選挙の候補者がマスクをしたまま演説しますか? 要人や政治家がマスクをしたままこのような公の場に出ていたら、良い印象は持たれず、逆に否定的な意見が飛び交うでしょう。

 ビジネスシーンでのマスク着用は結局、これらと同じ状況に該当すると思います。ビジネスは公の場です。公の場でマスクをしたままコミュニケーションをすることに何かメリットや正当化できる理由があるのでしょうか。

 もちろんマスクをしたままでは失礼だとの考えで着用を控える人もいるかと思いますが、そもそも、相手に物事を伝える時には身振り手振りや全身を使います。顔の一部をマスクなどで覆ったまま体を使って表現しても口元が見えないと、細かいニュアンスなど、すべてを伝えることは難しいでしょう。商談など、ふだん会わない相手とのコミュニケーションではなおさら伝わりにくいはずです。

マスクと帽子は同じ「概念」

 ビジネスシーンでのマスク着用に否定的な私の意見を説明する時、私はよく帽子の例を挙げます。

 ビジネスシーンで人に会う時を想像してみてください。帽子は必ず取りますよね。移動中や作業中はかぶっていても良いと思います。しかし誰かとコミュニケーションを取る必要が発生した際には帽子は取りますよね? マスクも帽子と同じ感覚ではないでしょうか。

逆手にとって印象アップ!

 それでも、花粉症の人にとってマスクは症状の悪化を防ぐ大事な予防道具です。また、予防とは反対に、咳やくしゃみを繰り返していたら、相手や周囲の人にも迷惑です。インフルエンザや風邪などを飛沫感染により相手に「うつさない」ためのマナーも必要です。厚生労働省も「咳エチケット」として感染症予防のため、マスクやハンカチで口や鼻をおさえることを呼びかけています。

 花粉症である、風邪をひいている、などの事情は相手からは察することができない場合がほとんどです。相手のためであっても、マスクをして渉外に臨む際は必ず一言、「風邪をひいてしまったので、マスクをしたまま失礼してもよろしいでしょうか」などと添えましょう。

 「何も言われないからマスクをしたままで良いだろう」と何も断りを入れないよりも好印象です。例えば、名刺交換の際、やむを得ず片手で名刺をお渡しすることもありますよね。そんな時は「片手で失礼します」と付け加えます。マスク着用について一言添えるのはそのような感覚です。言葉を添えるだけで、気を遣える人だという印象を与えますし、単純に、あなたのイメージはマイナスどころかアップすると思います。

マスクはあくまで非日常の道具

 「風邪をひいている」「花粉症がひどい」などの理由によるマスク着用は当然です。勤務中も、業務内容に支障がないのであれば活用したいものです。つまり、骨折したらギプスをするように、マスクも一時的な対処ツールなのです。

 しかし最近は、マスクをすることがこうした非日常的なことでなくなりつつあるように感じます。どちらかというと、人を「遮断」するため、話しかけられるのを防ぐために着用している人もいるのではないでしょうか。

 私は、予防目的以外でマスクを常用している人が多い国は、世界的に見ても日本だけなのではないかと思っています。これは「自己表現が苦手」「内向的」といった日本の国民性を象徴しているような気がしてなりません。「マスク論争」は、コミュニケーションが多様化する今だからこそ、向き合うべきテーマだと思います。

橋本真里子(はしもと・まりこ) ディライテッド株式会社代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。

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