デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は製造工程のデジタル化を指すデジタルマニュファクチャリングです。
2025年の国内スマートファクトリー市場は19年比で65%増へ
国内総生産(GDP)の20%を占める日本の重要な産業のひとつである製造業を取り巻く環境について説明します。
2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、売り上げも営業利益も減少した企業が多く、業績改善に向けた施策が不可欠となっています。こうした中、活発に行われているのがIoTやロボット、AIなどスマート化への投資です。2025年の国内スマートファクトリー市場の規模は、2019年比で65%増の139億ドル(1兆5790億円)に拡大するとの見方があります。この投資を競争力の強化につなげることが重要です。
デジタル化で感知、捕捉、変容を循環
ただ、現在は変動が激しく不確実で曖昧な時代です。こうした環境下で製造業のスマート化を目指すには、基本能力を意味するオーディナリー・ケイパビリティだけでなく変革力を示すダイナミック・ケイパビリティの強化が求められています。これによって刻一刻と変わる顧客ニーズに対応することができます。さらに「感知、捕捉、変容」というサイクルを構築し、リーダーシップを発揮しながら局面に応じた正しいことを行っていけばイノベーションの実現が可能になります。
感知、捕捉、変容の循環にはデジタル化が有効です。具体的には
(1)データの収集・連携、AIによる予測に基づく迅速な感知
(2)3Dデジタルによる開発の高速化とニーズの捕捉
(3)変種変量などに対応する生産体制の構築による競争力の獲得
といった措置によって製造業のダイナミック・ケイパビリティを強化するデジタルマニュファクチャリングを実現します。
それに向けてはブロックチェーンやビッグデータ、IoT、5G、3Dプリンターといった先端技術を活用し、製造に必要なドキュメント情報、設備、人などを適切にデジタル化する必要があります。
AIで互いの利害を自動調整
デジタル化に当たっては受発注から始まるサプライチェーン、R&Dから始まるエンジニアリングチェーンの双方を見渡した検討が必要です。
サプライチェーンの先端事例は、複数のAIが互いの利害を自動調整するプラットフォームです。各システムのAI同士が取引条件や資源の割り当て、融通方法などを自動的に交渉し、双方の利害を調整できるようにするもので、国際業界団体からの承認を得ています。エンジニアリングチェーンの研究開発領域では、AIとロボットの掛け合わせによる材料作成、評価、予測を通じた研究開発の自動化を目指しています。
人とAIが共同で超微細の不良部を発見
国内でもベンチャーとの協業によってデジタルマニュファクチャリングを推進する事例が顕在化しています。
ベンチャーと地元の製造業をつなぐ愛知県豊田市の事業では、ベンチャーがVR(仮想現実)を活用した生産設備の事前体感システムの試作や、AR(拡張現実)によるクレーン点検の技能伝承支援システムを開発しています。大手自動車メーカーの製造ラインでは、熟練工が感覚的に発見する超微細の不良部を人とAIの協働で発見する「不良予兆感知システム」の試行をベンチャーと組んで開始しました。
また、海外ではオランダのスタートアップであるEMEが、製品の材料に関する情報を共有し、効率的なリサイクルを促すプラットフォーム事業を展開しています。NASA(アメリカ航空宇宙局)などに最適な製造委託先を提案する米Xometry(ゾメトリー)は2021年6月にNASDAQに上場、時価総額は20億ドル(約2270億円)を超えています。
今回は開発・設計、生産管理、製造、技能伝承支援という領域から5社を紹介します。