デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は気候変動に対応
したソリューションを提供するClimate Tech(気候テック)です。
21世紀末には最大で4.4度上昇
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書によると、直近10年の世界の平均気温は産業革命の後期に相当する1850~1900年の年間平均に比べ1.07度上昇しています。温暖化は人為的影響を受けて一段と悪化しており、このまま温室効果ガスの排出が増え続けた場合、21世紀末には最大で4.4度上昇する可能性が指摘されています。
気候変動に関する国際的な枠組みはいくつかありますが、そのひとつがパリ協定です。2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)によって採択されたもので、世界共通の長期目標として2度目標が設定され、すべての国に削減義務が課されたことが特徴です。ほかにもSDGs(持続可能な開発目標)や事業運営に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とするRE100、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などがありますが、その多くが民間企業にとって馴染みのあるものになってきています。
また、消費者の間でも気候変動に関する認知度・関心は高まってきており、環境負荷の低い商品を好むなど、実際に行動を起こしている層は3割に上るとの調査結果もあります。
2020年の調達額は14年比で約8倍
こうした動きに伴い、Climate Tech市場は急成長を遂げており、2020年の調達額は161億ドル(約1兆8000億円)で、2014年に比べると約8倍の規模です。2021年は上半期(1~6月)だけですでに約142億ドル(約1兆6000億円)に達しています。
地域別では米国と中国系ベンチャーの参入が著しく、分野別ではEV(電気自動車)など電動モビリティ関連やエネルギー効率化のソリューション、植物性代替肉などが上位を占めます。
テックジャイアントの投資も活発
世界の事業会社の間ではテックジャイアントなどが、気候変動の解決に力を入れることを表明しています。ビル・ゲイツ氏やジェフ・ベソス氏らによって2016年に設立されたBreakthrough Energy Venturesは、設立当初時点で10億ドル(約1100億円)の投資を発表し、投資額は以降も拡大しています。アマゾン・ドット・コムは2020年に、約20億ドル(約2100億円)規模の気候変動対策に特化したファンド「The Climate Pledge Fund」を設立し、物流やエネルギー、資源、農業など、サーキュラーエコノミーなどの領域でベンチャー投資を実践しています。また、日系の大手事業者も気候変動に大きな関心を寄せており、気候変動や環境に特化したファンドの設立を発表しています。
温室効果ガスの削減にはさまざまな技術が有機的に連動し、社会実装される必要があります。二酸化炭素(CO2)の排出削減、貯蔵・固定化、再利用を視野に入れた炭素循環という観点から、再生可能エネルギーやCCS(CO2の回収・貯留)/CCUS(分離・貯留したCO2の利用)、サーキュラーエコノミーなどの技術を通して、社会システム全体で持続可能な社会を目指すことが重要です。
気候変動事業の成果比率は1割
当社はモーニングピッチの会員企業に向けてアンケート調査を実施しました。それによると9割の企業が気候変動(脱炭素)に事業として取り組むことに関心を持っている半面、実際に行動を起こしている企業は6割に過ぎないことが分かりました。また、事業で一定の売り上げを計上している企業はわずか1割でした。取り組みが行われていない企業が抱える主な要因としては
(1)事業として取り組むための方針や体制が自社にない
(2)どのように取り組めばよいのか分からない
(3)良いパートナーが見つからない
といった点が挙げられます。
脱炭素領域のオープンイノベーションを推進するにはベンチャーとの協業が重要なカギを握ります。今回は省エネ・電化・蓄電池、再エネ・クリーンエネルギー、炭素管理の領域から5社のベンチャーを紹介します。