デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は大企業発ベンチャーです。
テーマ概観を説明するのはイノベーションプロデュース事業部ビジネスインキュベーションユニット長の福島和幸です。ベンチャー企業の創業などに携わり、当社に入社した後は大企業による新規事業の創出支援に携わっています。
ベンチャー企業との協業が活発化
過去5年間のオープンイノベーション活動を振り返りますと、ベンチャー企業との協業に注力する大企業が急増しております。特にアクセラレーションプログラムを通じたベンチャー企業の探索や協業推進に注目が集まっていました。また、ベンチャー企業との協業の加速やM&A(企業の合併・買収)を見据え、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立し、本体とは異なる独自の方針、意思決定フローで投資活動に取り組む企業も増加傾向にありました。
オープンイノベーション活動を通じて新規事業創出の実績が生まれている一方で、DTVSには「自社の活動が新規事業創出に繋がらない」といった相談が増えています。アクセラレーションプログラムを実施したものの、(1)発表会後に活動がトーンダウンしてしまう(2)「有望ベンチャー」として紹介された企業へ投資したが、その後の事業連携や協業がうまく進まないーなどが主な理由です。積極的に活動していたにもかかわらず成果に結びついていないため、今後の活動を見直したいといったケースも決して少なくはありません。
新規事業に重要なポイント
ベンチャー企業との協業という手段を活用して新規事業を創出した企業は3つのポイントを押さえているケースが多いのではないかと考えています。
1点目は、新規事業案の考え方です。「経営資源」「未実現の需要」「自社で実現したいこと」の円を描いて、3つの円が重なっているスイートスポットに該当するアイデアに対して、ビジネス仮説を検討できているかという点です。
2点目は、パートナーとなるベンチャー企業の選定です。ビジネス仮説を具現化するために、「同じ目線で取り組むコミットメントはあるのか」「技術力を備えているのか」など、評価基準を設定したうえで判断する必要があります。ビジネスパートナーとして苦楽を共にするわけですから、両社の企業文化の適合も忘れてはいけない観点です。
3点目は、ビジネス仮説の検証です。ターゲットとなる顧客ニーズの有無や技術の精度など、目的と目標を設定した上で、事業としての確実性の度合いを確認することが重要です。
この他にも論点はありますが、こうしたポイントを押さえずに進めると、ベンチャー企業との協業につまずくことが多いようです。
経営経験のない若手やミドルを抜擢
これまで大企業の子会社社長は、本社の部長以上など特定の役職が就くルールや前例踏襲で制限されていた事例が多かったのではないでしょうか。しかし、レガシーな大企業も重点施策としてイノベーションや新規事業を掲げるようになり、専門部署の新設や新規事業にチャレンジできる仕組みの整備に伴って、事業を立ち上げた若手やミドルに経営を任せるケースが顕在化しています。一部で注目が集まっているのが30代社長です。