デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はFoodです。
FoodTechへの投資は年平均で30%の伸び
FoodTechは生産から最終消費に至る食のサイクル全てがターゲットで、2025年に市場規模が700兆円に達するとも言われる巨大産業にかかわってきます。
FoodTechに対する世界の投資額は2010年代の半ば以降、年30%のペースで伸びており、2020年は3兆2600億ドル(372兆円)に上ります。投資が拡大している理由は、食資源の枯渇に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボティクス、バイオテクノロジーといった技術で対処できるようになった点です。また、消費者の間でデジタルや環境、健康に対する志向が強まったこともFoodTech市場の浸透が進んだ要因として挙げられます。
「食資源の枯渇」「健康の維持」という重大課題への対応が急務
食資源の枯渇で懸念されている問題は、人口の増加と一人当たりの需要量の増加によって、たんぱく質の供給量が不足することです。こうした事態に直面しているにも関わらず、生産された食品の1/3は未然に廃棄されています。このため枯渇問題については、供給量をしっかりと確保し廃棄をいかに減らしていけるかが課題となっています。
最適な食事・栄養を確保することが難しくなっている点も食システムの課題です。現代は高カロリータイプの料理が普及したことで肥満者の割合は増加し、2030年には肥満者の割合が6割に達するとの見方もあります。このため健康的な食事をいかに提供できるかが、人類にとって重要になってきます。
「代替」「循環」「個別最適化」がキーワード
一連の課題を解決するのがFoodTechでキーワードはalternate(代替)とcirculate(循環)、personalize(個別最適化)です。従来食べていなかったものを食品として活用し人工的に新しい食品を開発するのがalternateで、具体的なサービス事例は植物性代替肉、培養肉、微生物発酵によるたんぱく質の製造、昆虫食などです。circulateという考えの下では廃棄予定の材料を二次流通させ、高付加価値化を図り新しい商品として作り変えていきます。personalizeによる解決策は、個人・家庭ごとに食を最適化し健康に役立つ情報をカスタマイズして提供することで、スマートキッチンやデータ診断・解析などがサービス事例です。
異業種連携による社会実装が加速
海外ではFoodTech領域のベンチャーの動きが活発です。米innitはレシピの提案から買い物、調理までが一元化されたプラットフォームを提供しています。食のGAFAと呼ばれており、GoogleやGEと協業し、顧客との接点の拡大に力を入れています。
日本でもFoodTechに対する注目度は高まっており、協業・投資やM&A(企業の買収・合併)の事例が増加傾向にあります。食の領域は間口が広く様々な協業の仕方が考えられるというのが特徴でしょう。今回はalternateとcirculate、personalizeという3つの領域から5社を紹介します。
カメラで食事を自動解析
ライフログテクノロジー(東京都中央区)は食事や血圧、体重といったデータを解析する健康アプリ「カロミル」を提供しています。食事解析の場合、従来は記録時にアプリを立ち上げる必要がありましたが、スマートフォンに搭載されているカメラで撮影すれば、市販品やコンビニ商品、自炊料理など、あらゆる食事を自動的に正しく解析できます。予測AIは将来の体重を予測することなどで、ユーザーの行動変容をサポートします。
未利用魚を対象にしたサブスクサービス
ベンナーズ(福岡市中央区)はサブスクリプションサービス「Fishlle(フィシュル)」を提供しています。魚の総水揚げ量のうち、およそ30%は廃棄処分されます。その多くは(1)マイナー過ぎて知られていない(2)水揚げ量が少なすぎて出荷の規格に合わない(3)多すぎて相場がつかない-といった特性を備えています。こうした「未利用魚」をターゲットにして「のせるだけ、焼くだけ、茹でるだけ」で魚料理を楽しめるのがフィシュルです。
日本食としての旨味を味わえる植物肉
グリーンカルチャー(東京都葛飾区)は植物由来の肉「Green Meat」を販売しています。植物肉の価格は100グラムあたり200円程度と、他の代替タンパク質よりも安価で消費者にも受け入れられやすく、代替タンパクの世界市場ではおよそ7割を占めています。海外の植物肉は、一般の肉に味を近づけることに力を入れていますが、グリーンミートは日本の味つけにより旨味を加えています。唐揚げ、ソーセージなども作っており、日本食としての旨味を味わえる点が特徴です。
スマホで食品ラベルを撮影しアレルギー判定
CAN EAT(東京都新宿区)は、「アレルギー管理サービス」を提供しており、食事を提供するレストラン・ホテルなどが利用しています。中央で一括管理できるチェーン店とは違って、地産地消が行われるなど店舗ごとにメニューが異なるため、各店舗で支配人や料理長がアレルギー対応を行っているからです。CAN EATのサービスでは、スマートフォンのカメラ機能で食品ラベルを撮影。自動でアレルギー判定を行い、メニューカードにアレルギー食材を記載するなどの店側の対策を支援します。
廃棄処分の食品を飲食店や消費者に届ける
バリュードライバーズ(東京都港区)は、まだ食べられるにも関わらず作り過ぎや「傷ついた」といった理由で廃棄処分される訳あり食品を、飲食店や消費者に届けるフードシェアリングサービス「tabeloop(たべるーぷ)」を提供しています。売り手・買い手とも会員制で登録するクローズドなECプラットフォームで、売り手から最大15%の手数料を取得し、その一部を飢餓撲滅のために活動している団体等に寄付しています。
多様なコラボを生み出し社会への浸透目指す
FoodTechを推進するに当たっては更なるリスクマネーの供給が必要です。世界的にはFoodTechへの投資額が増えていますが、日本は世界の1%に満たないだけに、大企業のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)などを活用してスタートアップにリスクマネーを供給することが必要でしょう。
また、FoodTechを広げていくには、需要側への意識醸成が不可欠です。日本では持続可能な消費に「関心がない」消費者の割合は他国に比して非常に高いことが指摘されています。こうした現状を打破するには消費者に対する啓発活動が不可欠となりますが、1社だけの取り組みでは困難です。食という間口の広さを活かしながらFoodTechの意義を訴求し、多様なコラボを生み出すことで社会への浸透を目指すことが今後のポイントと考えています。多くのFoodTechベンチャーを誕生させるには、こうしたサイクルの構築が不可欠でしょう。
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