デロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は最先端技術で社会課題を解決するDeep Tech(ディープテック)です。
競争優位性があり参入障壁が高い
Deep Techを技術という観点からみると
- (1)斬新で、現在使われている技術に対して大きな進歩をもたらす
- (2)実用化してラボから市場に持っていくまでに、相当な研究開発を必要とする
- (3)基盤となる知的財産は模倣が難しい。もしくは十分に保護されているため、競争優位性があり参入障壁が高い
―といったように定義できます。
また、社会・環境面では
- (1)大きな社会・環境的課題や差し迫った地球規模の課題の解決策を生み出す可能性がある
- (2)独自の市場を創出したり、既存の産業を破壊したりする力を持つ
といったインパクトがあります。
こうした特性を踏まえ、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の達成に貢献しようとするDeep Techスタートアップの動きが世界で活発化しています。とくに「産業と技術革新の基盤をつくろう」「すべての人に健康と福祉を」「気候変動に具体的な対策を」といった領域に対する関心が高まっています。
ロボット工学・ドローンなど7分野によって構成
Deep Techは物理学や数学、化学、生物学といった多様な基礎科学に根差した(1)ロボット工学・ドローン(2)光工学・電子工学(3)量子コンピューティング(4)人工知能(AI)(5)ブロックチェーン(6)先端材料(7)バイオテクノロジー―という7分野によって構成されています。
近年、Deep Techの実用化が進んでいますが、AIにおける機械学習や量子コンピューティングなど新たなプラットフォーム技術が出現したことにより、あらゆる業界で具体的な用途を生み出しています。この技術は挑戦のハードルを下げるという効果をもたらしています。その結果、スタートアップが様々な領域で新たな発明を追求し、より多くの大企業が多様なイノベーションの投資・開発手段を講じるようになりました。また、Deep Techスタートアップは他のスタートアップに比べ、より多くの資金を集めるようになってきました。
“新”産業革命を推進
新たなプラットフォーム技術の同時発生は、〝新〟産業革命を推進する勢いを生み出しています。具体的には感知・動作、計算・学習、マテリアルという3つの領域が交わることによって、生物由来製品の培養や運搬などの生産システムといった事業分野で新たな動きが顕在化しています。
世界市場を見渡しますと、7分野の中で産業界への適用が最も進んでいるのは光工学・電子工学です。Deep Techを積極的に取り入れているのがヘルスケアで、光工学・電子工学、AI、先端材料、バイオテクノロジーといった多様な分野のDeep Techによって新しい製品・サービスが続々と誕生しています。Deep Tech領域のスタートアップの数は米国が圧倒的ですが、日本は光工学・電子工学、ロボット工学・ドローン、先端材料の分野で比較的優位な立場にあります。
企業評価額ベースで上位20社のうち約半数を占める
日本の中だとDeep Techスタートアップの存在感はさらに大きくなります。スタートアップを企業評価額ベースでみた場合、深層学習と様々な専門分野の深い知識を掛け合わせた最先端技術の開発を行うPreferred Networks(PFN、プリファードネットワークス)がトップに立ち、ビットコインマイニング用の半導体を開発するTRIPLE-1(トリプルワン)が3位につけるなど、上位20社のうち約半数を占めています。
大企業が自社のソリューションやアセットを活用してスタートアップと協業し、一緒に社会実装を進める動きも活発です。例えばロボットの開発を行うテムザックは大手携帯電話事業者と連携し、ラストワンマイル対策として日用品を団地の入り口から住居棟まで配達する実証実験を行っています。このほか素材やDXの領域などで、数多くの成果を残しています。今回は7分野の中から5社を紹介します。
食用コオロギで持続可能なフードサイクルを確立
グリラス(徳島県鳴門市)は徳島大学発の昆虫食スタートアップです。農業残渣や加工残渣で餌を賄い、フタホシコオロギを大量に養殖して人の食糧にすることで、持続可能なフードサイクルである“サーキュラーフード”を確立しています。中核技術は食品の残渣活用と食用コオロギの自動飼育・加工システム、ゲノム編集技術による品種改良です。このうち飼育システムについては、徳島県美馬市内の廃校を利用して、生産から加工に至るまでの工程を取りそろえた、国内初のコオロギファームを建設しています。
曇り空でも高い発電効率を維持する太陽電池
エネコートテクノロジーズ(京都府宇治市)は、メガソーラーなどで使用される従来型の結晶シリコン系太陽電池とは全く異なる性質で、照度を選ばずに発電する「ペロブスカイト太陽電池」を提供しています。変換効率の優位性に加え、曇り空や室内光でも相対的に高い発電効率を維持できるほか、超軽量で材料・製造コストが安くコストが安くて済むという特性を備えています。2023年の製造販売を目指しています。
デジタルツイン上で最適化
RUTILEA(ルティリア、京都市左京区)は、仮想空間で現実の作業を再現するデジタルツイン上での最適化に加え、オープン型のハードウエアとAIによる自動化に取り組んでいます。具体事例のひとつは機械が突発的に停止する計画外ダウンタイムの削減です。同社のソリューションを導入することによってデジタルツイン上で最適な
交換タイミングを計算し、指示行った結果、年間7,000万円のコスト削減を実現したケースがあります。
人間と同じような動きをするロボット
ソラリス(東京都文京区)は、独自開発の人工筋肉により人間の腸と同じように収縮・弛緩をしながら内容物を混錬・搬送できるロボット「蠕動(ぜんどう)運動ポンプ」を提供しています。超高粘度スラリーの搬送や混錬の自動化を可能とし、様々な現場で最後まで人手に頼っていた工程を自動化、作業者の高齢化問題や人手不足解消に貢献します。
感度やスピードが飛躍的に向上
ANSeeN(アンシーン、浜松市中区)は感度やスピードなどが飛躍的に向上したX線センサー技術を提供しています。ガラス系材料を用いた従来型センサーの場合、変換効率が1%で感度を上げるのが難しかったのですが、ガラス部分を半導体に置き換えることで、変換効率が95%以上になりました。今後は、X線カメラを使う際に人が目視する部分を自動判定できるようにするなどのアプリケーションを展開する計画です。
米国ではITスタートアップへの投資が一巡した後、Deep Techスタートアップへの資金が回るようになりました。日本はDeep Techスタートアップへの投資マネーがまだまだ少ないですが、スタートアップの成長を促すためにも米国と同様のエコシステム(生態系)の構築に期待が高まります。
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