デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを東京・大手町で開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげることを狙いとしています。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は教育とテクノロジーを融合させたEdTech(エドテック)です。
記憶の定着がよいオンライン学習
2021年1月にオンラインで開催された世界経済フォーラムでは、「COVID-19の拡大が教育を変えた」として、オンライン学習の有用性を指摘しました。とくに注目されたのは、授業内容について覚えることが可能な量です。教室での学習は全体の8~10%に過ぎないのに対し、オンライン学習だと25~60%まで拡大したからです。従前から言われていたことですが、インプットの学習は自宅で対応しやすいということを改めて証明しました。
EdTech系ベンチャーの調達額は2倍超
オンライン学習の需要が拡大したことにより、EdTechベンチャーへの期待も高まっています。2021年上半期(1~6月)の資金調達額は前年同期比2.2倍の90億ドル(約1兆円)。半期ベースで過去最高となりました。
国内eラーニング市場も産業構造の変化や人手不足などを背景に成長してきましたが、2020年から急速に拡大しています。矢野経済研究所の調査によると、2021年度は前年度比8.5%増の3126億円になる見通しです。こうした市場の流れを踏まえ台頭しているのがEdTechです。
教育イノベーションを後押し
EdTechを活用すれば自宅でオンライン学習やモバイル学習を行えるほか、これまで勘や熟練の技で対応していた領域をデータで管理できるようになります。また、双方向コミュニケーションやシームレスな学習体験も可能で、理数系やアート系に関するスキルも身に付けやすくなるなど、EdTechの醍醐味は多岐にわたります。
2020年から教育現場は大きな変化を遂げています。GIGAスクール構想の前倒しによって学校には一人1台の割合で端末が導入されたほか、プログラミング学習が必修となるなど、テクノロジー関連の高度なスキルが不可欠になりました。また、思考力や想像力、アウトプット力も強く求められるようになり、EdTechが果たす役割は大きくなっています。こうした教育イノベーションを後押しするため経済産業省は、EdTechの活用に関する補助金制度を立ち上げ、学校に向けてEdTechサービスの導入を推進しています。
ビジネスやテックスキルなど幅広いサービスが台頭
学校現場の教育イノベーションが進む一方で、大人の学び(リカレント教育)にも課題があります。勤務以外で自己研鑽しない人の割合が46%とアジア太平洋地域で最下位というデータがあり、日本では大人の学びのイノベーションも必要になっています。COVID-19によるステイホーム時間では大人のオンライン学習に対するニーズが増えており、教育、ビジネス、テックスキル、フィットネスなど幅広いオンライン学習サービスが出現しています。
大企業によるM&Aが相次ぐ
EdTech系ベンチャーと大企業が協業するケースも顕在化しています。ノート共有サービスを展開するCLEARは、大手文具メーカーのグループに参画。デジタルとアナログのノートの連携に乗り出しました。このようにM&A(企業の買収・合併)によって、民間大手が教育イノベーションに取り組む事例が相次いでいます。
中高生向けITプログラミング教育を展開するライフイズテックは奈良県教育委員会と連携し、高校の普通科で必修科目となる「情報I」用の教材を開発します。また、同社はこれまでのノウハウを生かし、子供向けだけではなく、企業を対象としたDX人材の研修サービスを開始し、すでに複数の大手企業が導入しています。
今回はSTEM教育と機会提供、学習支援という3つの分野から4社を紹介いたします。
バーチャル宇宙飛行士の選抜試験
Amulapo(東京都新宿区)は「わくわくは、宙にある」をコンセプトに掲げ、ロボットやAIなどの先端ICT技術を用いた教育・エンタメ用の宇宙体験サービスを展開しています。そのひとつがバーチャル宇宙飛行士の選抜試験。小学校の高学年を対象にVR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を活用して行います。また、16歳以上には夜の鳥取砂丘でARを活用した月面都市を体験できるサービスを提供しています。このほか「衛星データを利用したデジタルツイン技術」など、宇宙エンタメという新市場の開拓にも力を入れています。
双方向を可能にしたライブ授業
子供が小学校に入学するのを契機として母親の4人に1人が離職を経験しており、経済的な損失に換算すると約3兆円に達すると試算されています。こうした現状を踏まえキッズシーズ(東京都中央区)は「キッズウィークエンド」という子供向けオンライン教育プラットフォームを提供しています。例えばオンライン形式のミカン狩りでは、実際に現地の農家の方が生中継でミカンを収穫し、そのミカンが生徒の家に後日届くなど、双方向を可能にしたライブ授業を提供しています。
大人が学ぶ生放送学習コミュニティ
大人たちが学び続けるオンライン型の生放送学習コミュニティを提供しているのがSchoo(東京都渋谷区)です。数多くの人が授業を同時に視聴することを重視しており、授業中には質問も可能です。また、学習動画の種類もビジネススキルやマネジメント、自己啓発、政治経済など多彩で、21のカテゴリーの中に6200本の動画を用意しています。講師陣は業界の最先端で活躍しているビジネスパーソンが中心で、生きた学びを提供しています。一般消費者向けのサービスに加え、法人向けに従業員の学びを支援するサービスも展開し、会社に学習を継続できる文化が根付くまで支援を続けていきます。
映像の再生技術を授業に活用
RUN.EDGE(東京都渋谷区)は、映像の再生・活用に関して高度な技術を備えており、各国のプロスポーツクラブで活用されています。その技術を活用し、振り返りやディスカッションが必要となる教育分野にも応用したサービスが「TAGURU」です。オンライン授業を見ながら、分からないところや重要だと思うところでボタンを押すとシーンを残していくことができます。講義内容に対し生徒の意見などをビジュアル化することで、それをベースに先生がフォローするといった授業を行っているケースもあります。
オンラインの学習効果は大きく、利用者は着実に増えるとみられています。EdTech系ベンチャーが活躍する領域はますます広がることでしょう。
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