Fromモーニングピッチ

地方のDXは緒に就いたばかり 企業、行政とベンチャーの連携が加速の鍵

Morning Pitch事務局

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためフルリモート開催となっていましたが、7月から会場(東京・大手町)よりLIVE配信する形でのハイブリッド開催となっております。ご来場もしくはリモートでのご参加が可能です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は地方DX(デジタルトランスフォーメーション)特集です。

DXを理解していない企業は7割超

 DXとはデジタル技術を活用して企業・ビジネスを変革し競合優位を確立することです。エネルギーや小売り、スタートアップ、官公庁など様々な業種を超えたデータや技術の連携が進むことにより、日常が変わっていくという概念でもあります。今回は(1)地域産業振興(産業DX)(2)地域の生活向上(地域DX)(3)行政サービス向上・効率化(行政DX)-の3つに分けました。

 新潟県では今年3月、県内の約1000社を対象に実施したDX関連の調査報告書を公表しました。それによるとDXを認知・理解していない企業が全体の73%を占めました。

 そうした中、DX化に取り組んでいる企業の動向を業務工程別にみると、全体的にはバックオフィスのDX推進に対するニーズが高く、次いで生産・販売工程の需要が高いことが判明しました。

バリューチェーンごとにDX化を検討

 こうした状況を踏まえると、産業領域でDX化を進める場合には、卸・小売業を例にすると販売企画やサプライヤーの開拓・仕入れ、流通、集客、販売といったバリューチェーンごとに業務を切り出して、どういったところにDX化の余地があるのかについて考えておくこともひとつのポイントとなるでしょう。販売企画ではAIを活用した需要予測、販売では電子タグによる自動読み取り、セルフレジやキャッシュレス決済などがその事例です。

 また、COVID-19を契機に行政課題が大きく変化しています。医療・介護分野であればIoT・AIを活用した遠隔診断や服薬管理、ロボット・IoTを活用した在宅介護支援といったように、行政課題に対応するスタートアップのソリューションを具体化することがカギとなります。

田の水管理をスマホで自動化

 地域×スタートアップのDX推進事例を紹介します。産業DXの分野では福岡発のスタートアップであるニューワールドが、動画コンテンツの制作やSNSを活用したプロモーションを通じ、モノづくりにかかわる企業のマーケティング活動を行い地域で活躍しています。笑農和は、稲作で最も手間のかかる水田・田んぼの水管理を、スマートフォンで自動化する「paditch」を展開、農業の担い手不足の解消を実現するなど、地域農業を支援しています。

スマホで医療の遠隔診断

 地域DXではリーバーが、24時間365日にわたってスマホで医療相談を行えるアプリ「LEBER」を開発、COVID-19による外出自粛などにより病院に行きづらい人もアプリを通じて医師に気軽に相談できるプラットフォームを提供しています。アイセックは新潟市の委託事業で約650万件に上る市民の医療・介護データを匿名化し解析を行った上で、糖尿病の未然予防などにつながる情報や具体的な健康課題を提案しています。行政DXという分野では、三重県四日市市がtalent and assessmentのAI面談サービス「Shain」を試験的に導入、嘱託職員の面接試験で活用しています。

 今回は産業・地域・行政DXという3つの領域から5社を紹介します。

不動産管理をシェアリング

 Rsmile(東京都中央区)は不動産管理のシェアリングプラットフォーム「COSOJI」を提供しています。不動産オーナーや管理会社などの依頼者は、共用部の清掃や目視点検、草むしりといった不動産に関する軽作業を、必要な作業量だけ地域住民へ発注する仕組みです。移動コストが削減され従来と比較して価格を抑制できるほか、働き手はライフスタイルに合わせて隙間時間に好きな時だけ働くことができます。

BIMでサプライチェーン全体をDX化

 Arent(東京都中央区)はコンサルティングからシステム開発、新規事業の創出に至るまでを一気通貫で行うDXのプロフェッショナル集団です。中心となる技術は、コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデルを再現して、よりよい建物づくりに活用するBIMです。これによってサプライチェーン全体のDX化が可能になります。大手プラントメーカーとはゼロの段階から2年でジョイントベンチャーを設立しました。

議事録作成支援サービス

 エピックベース(東京都渋谷区)はAIによる音声認識を活用した議事録作成支援サービス「スマート書記」を提供しています。サービスを始めるに当たっては徳島県と実証実験を繰り返してきましたが、知事の定例記者会見での巻き起こしに要していた時間を80%削減することに成功しました。英語や中国語など90カ国語に対応しており、今後は専門用語の認識率向上に取り組んでいきます。

黙食支援システム

 フォルテ(青森市)はAIの顔認証システム「MIDERA(ミデラ)」を提供しています。避難所での受付や混雑状況、救援物資の把握やワクチン接種会場での待機時間の管理などを行います。近く提供を開始するのが黙食支援システム「サシネ」です。テーブルに設置することによって声のエネルギーを測定し、大きくなってくると赤のランプが点灯するため、感染リスクに注意しながら食事を摂ることが可能です。

行政・災害などに特化したAIチャットボット

 ビースポーク(東京都渋谷区)は、会話形式で多言語の応答が可能な行政・災害・観光に特化したAIチャットボット「Bepot(ビーポット)」を提供しています。住民サービスに関する窓口の一本化やリアルタイムな情報発信、アンケートなどを行います。また、9月からはオンライン市役所が始まる予定です。相談業務をすべて自動化し、役所側では確認業務だけを行うことになります。

 新潟県の調査報告書結果から分かるように、地方のDX化は緒に就いたばかりです。DX化を加速するためには、企業、行政とベンチャーとの連携事例をいかに増やしていけるかがカギとなるでしょう。

Morning Pitchは、毎週木曜午前7時から開催している、ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すことを目的としたピッチイベント。 毎週5社のベンチャー企業が、大企業・ベンチャーキャピタル・メディア等のオーディエンス約200~300名に対しピッチを行う。 2013年1月から開始し、2020年12月時点で全350回超、累計1700社超のベンチャー企業が登壇している。 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社、野村證券株式会社の2社が幹事となり開催。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら