Fromモーニングピッチ

サイバー空間の経済活動を支援 台頭著しいXR系ベンチャー

山藤雄平

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はVR(仮想現実)とAR(拡張現実)、MR(複合現実)などを総称したXR特集です。

 ここで改めてXR領域の定義を説明します。VRは実世界と切り離されたデジタルな仮想空間に没入するものです。ARはあくまで現実世界に一部デジタル情報を付加するもので、「ポケモンGO」はまさにARです。MRはARと異なりデジタル情報をメーンとして現実情報を付加するものです。

ヘッドマウントディスプレイが牽引役

 XRの世界の市場規模をみますと、2020年は約1兆2000億円でしたが、2024年には約7兆3000億円まで拡大するとみられています。大きな伸びを示す要因は、COVID-19によって非接触というニーズに応えた商品の人気が高まっているからです。代表的な事例が頭部に装着するヘッドマウントディスプレイで、安価で軽量なタイプが市場を牽引するとみられています。

 国内のXR領域の市場も堅調に推移しています。矢野経済研究所によると2019年の市場規模は約4000億円でしたが、2025年には3倍の約1兆2000億円にまで成長するとみられています。ヘッドマウントディスプレイ用の5Gなど基盤技術の開発も進んでおり、スマートフォンのようにBtoCで普及しBtoBで展開されるという動きが予想されます。

遠隔アドバイスで効率性が9割改善

 こうした動きを踏まえ、将来的にXRが普及するための流れと、各フェーズで必要な技術を説明します。最初は一般消費者向けにゲームや音楽、スポーツといったエンターテインメント要素が強い分野でのXR技術の活用が期待されます。それには5G環境の整備やデバイスの軽量化、臨場感をもって楽しむための立体音響などが重要な要素となってきます。

 その後、研修や教育などへの普及が想定されます。実際に自動車メーカーではARを導入して本社のサポートセンターと技術者が視界を共有化し、技術アドバイスを行っています。これによって車体修理時の効率性は93%も改善したという事例も出てきました。

医療や自動車分野のDX化に寄与

 このフェーズに移行するとAIによるトレーニングの効果の可視化に加え、個人や企業に合わせたコンテンツのカスタマイズが重要になってきます。また、自身の動きを画面の向こうにいる人や組織と連動させるためにも、現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録するモーションキャプチャ技術の高度化に注目が集まっています。

 最終的にはとくに医療、自動車、建設、製造業といった領域に対するDX実現のための活用が期待されます。このフェーズでは遠隔手術を行うための触覚デバイスが使用されています。また、3DCADデータなどをリアルタイムでやり取りするため、端末の近くでデータ処理を行うことにより負荷を解消するエッジコンピューティング技術が求められています。

リアルな感染症診療をVRで体験

 スタートアップと大企業などとの連携も進んでいます。ジョリーグッドは順天堂大学と連携し、実際のCOVID-19診療病棟を舞台にしたリアルな感染症診療をVRで体験学習できるシステムを開発しています。MESONは大手広告代理店と連携し、現実世界を仮想空間に再現するデジタルツイン上で、遠隔地のVRユーザーと現実世界のARユーザーがコミュニケーションを行える場の構築に挑戦しています。

 今回はメディア・広告やファッション、ライフスタイルなどの領域から5社を紹介します。

視野角60度を実現

 Cellid(東京都港区)はAIとナノテクノロジーを活用し、世界最大となる視野角60度を実現したARグラス用ディスプレーを展開しています。従来の50度型に比べると1.5倍の情報量を表示します。また、高精度の空間認識ソフトも提供しており、ハードとソフトの連携によって没入しやすい環境を提供しています。建設現場では作業員のヘルメットに搭載することで、作業員の場所などをリアルタイムで把握できます。

ARでピザ完売

 OnePlanet(千葉県一宮町)は企業のアセットとAR技術を組み合わせたDXの開発、提供を行っています。例えば大手ピザチェーンに提供したARでは、世界中のチーズを巡りながら、そのままピザの購買ページに移るという体験を提供しました。ヒット商品が完売するなどの成果を出しています。自治体でも導入事例があり、ご当地キャラクターとユーザーがインタラクティブに触れ合える体験を催しています。

バーチャルヒューマン

 Aww(東京都渋谷区)は、3DのCG技術を活用することで人間らしい表情を可能にしたバーチャルヒューマンの開発、運用を行っています。すでにARバーチャル説明員として活躍しているほか、アパレルや化粧品などを中心にさまざまなグローバルブランドの広告に起用されています。COVID-19を契機に対人サービスでは人間以外のAIやチャットボットのやり取りが進むと思われ、需要はさらに高まるとみられます。

“ホラテク”で恐怖を演出

 ホラーとテクノロジーを掛け合わせた「ホラテク」をコンセプトに掲げているのが闇(東京都目黒区)です。VRやAR、立体音響、体感フィードバックなど先端技術を活用した多彩な恐怖演出を売り物とするWeb制作と、お化け屋敷などホラーイベントの世界観を拡張するシステム開発を行っています。ホラーVRを制作する一方で大勢の人が同時にVR体験できるシステムも構築、ひと夏で5万人が有料体験するなどの成果を挙げています。

VR酔いを解決

 VRの普及が進まない理由として、VR酔いが挙げられます。対策は施されていますが前にしか移動できず、移動速度も遅く視野も狭いといった問題があります。こうした問題を解決するのは雪雲(長野市)が提供する次世代VR技術です。具体的にはVR空間を自由に移動でき、高速移動や横移動、ダイナミックなジャンプも可能になります。また、従来のVRコンテンツは15分が限界でしたが、長時間利用にも対応できます。

 COVID-19によって商取引をはじめとしたさまざまなサービスがDX化し、サイバー空間での経済活動は今後も加速するとみられています。建設業界をはじめとした人手不足の問題も顕在化しており、こうした課題に対処するためにもXR関連スタートアップのさらなる台頭が予測されます。

国内大手独立系コンサルティングファーム、ブティック系ファームにて、中小・中堅企業に対する営業促進支援、IoT・ICTを用いた新規事業立案等を経験し、2018年にデロイトトーマツベンチャーサポートに入社。建設・建築、XR分野を担当しており、大企業向けのイントレプレナー育成支援、アクセラレータプログラムの運営等に従事している。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら