デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は大企業発ベンチャー特集です。
DX対象の大型ファンド相次ぐ
2020年はCOVID-19の影響がありましたが、上場企業とベンチャー企業との協業数やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)からベンチャー企業への投資額が前年を上回るなど、堅調に推移しております。このような状況を踏まえ、大企業の豊富な経営アセットを活用し新規事業に挑戦する社内ベンチャーを大企業発ベンチャーと定義して、特集を組むことにしました。
近年は、大企業の中の技術やアイデアを事業化する活動が増加傾向にあります。とくにわれわれが着目しているのは、こうした大企業発ベンチャーが躍進を遂げ、メガベンチャーへと成長する可能性が高まっている点です。また、評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップであるユニコーンとのジョイントベンチャーを設立し、事業規模を狙った取り組みにも注目しています。
明確なゴールと最適な予算配分
大企業発のメガベンチャーが誕生するには3つのポイントがあると思っています。まず明確なゴールの設定と最適な予算の配分です。IPO(株式公開)や1000億、2000億円以上の事業を作り出すといった明確な目標を定め、必要な予算を投下しているのかといったことが重要です。2つ目のポイントは、戦術と戦略、施策を整合させることです。
よくあるのは手段が目的化するパターンで、「アクセラレーションプログラムを開始しました」「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げました」といったケースです。明確なゴールを設定せずに施策だけ先行し、数年後に目立った成果もなく活動を中止してしまう企業が散見されます。
3点目が経営アセットを活用したビジネスモデルです。自社のアセットを活用し技術やプロダクトを磨くこと、量産化、拡販が期待できることから、大企業の豊富なアセットは競争優位を構築する上で重要です。
大企業に所属しながらの起業も可能に
こうしたトップダウン型の戦略だけではなく、ボトムアップ型でもさまざまな挑戦が行える環境も整備が進んでいます。
そのひとつが社内新規事業制度で、大企業が挑戦する機会が増えています。2020年度からは経済産業省が打ち出した出向起業等創出支援事業が開始しています。大企業に所属していながらも起業ができ、起業した後の助成金の費用を一部負担するといった制度です。ファイナンスの機会も増加しており、事業の一部を外部に切り出し、新会社として独立させて事業価値を高めるカーブアウトを対象としたVC(ベンチャーキャピタル)も台頭しています。
今回はこうした施策を活用して起業した5社の大企業発社内ベンチャーを紹介します。
スポーツ応援用のアプリ
NTTコミュニケーションズから社内起業したSpoLive Interactive(東京都千代田区)が提供するのは、デジタルの力によってスポーツファンとチームの距離を縮め、ファンが一体感をもって応援できるスマホアプリ「SpoLive」です。スマートフォンだけではなく応援をスタジアムのスクリーンに可視化できるほか、対戦チームと応援数を競ったり、ロイヤルティの高いファンに対しチームからプレゼントを贈ったりする使い方も可能です。
不動産登記情報をデータ化
銀行発のTRUSTART(東京都港区)は、不動産業界の新規顧客課題をビッグデータによって解決するソリューション「R.E.DATA」を展開しています。具体的には不動産登記情報をデータ化して蓄積することにより、マーケティング施策や顧客プロファイリングに活用できる情報として不動産会社や税理士、金融機関などに提供しています。
農作業の人材をマッチング
農作業の人材マッチングプラットフォーム「農How、農Care」を提供しているのが、自動車部品メーカー、武蔵精密工業発のアグリトリオ(愛知県豊橋市)です。マッチングしたユーザーに対し、農家は時給プラスサービス利用料の300円を支払い、人手が必要な時だけユーザーに来てもらう仕組みです。サービスのターゲット層は子育て中でフルタイム勤務が難しい主婦層や社会人経験が豊富な人たちです。
ブランディングを自動化
ブランディングをオートメーション化するWebサービスを提供しているのがZeBrand(東京都渋谷区)です。国内フォントベンダー最大手のモリサワが社内の新規事業として立ち上げ、2019年にスピンオフを果たしました。まず簡単な質問を5分程度回答することによって、その情報からブランドアセットを自動作成。その後、ロゴやフォントをカスタマイズし必要に応じてデザイナーなどに相談、ブランディングを練ることができます。
次世代方式でバナイエビを養殖
海幸ゆきのや(大阪市北区)は、関西電力が初めて食領域で事業化した会社です。「幸えび」というブランドを付けて静岡県磐田市の新設プラントでバナイエビの陸上養殖を行っています。品質管理のノウハウを生かし、完全閉鎖循環式という次世代型の養殖法を採用。薬品や添加物を使わずに、身が締まった歯ごたえがあるエビの養殖に成功しています。車エビ並みのおいしさを実現しています。
大企業の間ではCOVID-19を契機に新たなビジネスモデルが求められています。イノベーションや新規事業を重点施策として掲げる動きも活発化しており、大企業発ベンチャーの台頭を促すことでしょう。
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