デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は関連市場を含めると急激な伸びを示している人工知能(AI)特集です。
ベンダーの伸びは予想以上
AI関連市場は2015年時点で2000億円にも満たなかったのですが急激に成長しており、2030年には2兆2000億円規模にまで拡大するといわれています。領域別では金融と公共に次いで情報通信や製造領域の伸びが目立っています。
とくにAIベンダーの売り上げ規模は、我々の予想を上回るスピードで拡大しています。アナリストは平均で20~23%の伸びを予測していたのですが、現状はそれを5ポイントほど上回る形で推移しています。2019年度の総売り上げは約350億円でした。とくに画像認識と言語解析が急成長しているのに加え、データ関連の人材不足を背景に機械学習の自動化プラットフォーム市場が急激に拡大していることもあって、2024年度には約1000億円の規模にまで成長するとみています。
進む二極化
今後のAIは画像や自然言語の解析といった技術を活用し汎用的なサービスを提供するコモディティ型と、匂い分析や画像生成、防犯カメラ解析など特定のソリューションに特化した特化型で二極化していくとみています。
このうち画像解析については、道路の舗装状況といった専門技術が必要な領域でも、同様のレベルでひび割れなどを瞬時に検知し可視化するというソリューションがあります。ディープランニング技術などを融合することで、一度に多数の製品の中から個々の名称にいたるまでを正確に検知することも可能になり、物流の効率化に寄与しています。
また、異常物体の警告に関しては、本当に不審者なのかということを画像解析で判断し、指名手配の犯人などと照合するプロジェクトも進んでおり、カメラの性能が大きく向上していくことでしょう。
AIの市場は可視化分析や対処といった3つのプロセスがあります。今回は時系列のデータ化や顧客プロフィールの推定、自立適応制御といった領域から5社のベンチャーを紹介します。
ビデオテーマなどを指定すれば曲を自動生成
動画クリエイターの大きな悩みの1つに、BGMの選定があります。これを踏まえ「誰もが簡単に音楽を作れる」をコンセプトに掲げ、動画クリエイターのためのAI作曲サービスを提供しているのがSOUNDRAW(東京都渋谷区)です。ビデオテーマやムード、曲の長さを指定するだけでAIが15曲を自動生成します。ユーザーが細かく曲を編集することも可能で、メロディーやテンポ、楽器、長さ、音程などを自由に変更してカスタマイズできます。2社と業務提携しており、楽曲生成エンジンをAPI連携して、新規アプリの共同開発や動画関連サービスの新規立ち上げなども共同で行っています。
組織のミッションに直結するニュースを探索
ストックマーク(東京都港区)は、組織の情報感度とデジタルリテラシーを高めるプラットフォーム「Anews」を提供しています。Anewsでは組織のミッションに直結するニュースを約3万のメディアから収集します。最先端の自然言語処理で見落としがちなニュースを拾うことができるので、一般教養だけではなく個人や組織のミッションに即したニュースを推奨します。また、チーム内で使用することができ、関心度合いやコメント、メンバー間のつながりなどを分析できるため、自発的なチーム組成や組織変革のサポートも可能です。
位置情報を分析し人流を調整
レイ・フロンティア(東京都台東区)は位置情報を分析するプラットフォームを提供しています。具体的には人や乗り物の行動データを取り扱うサービスの開発や、データ分析の支援を行っています。最短5秒間隔で高頻度な収集を行える点が技術面での優位性です。サービスの導入事例としては栃木県宇都宮市の公式ヘルスアプリがあります。日々の徒歩や自転車などの活動情報を自動判別し、その活動量に応じてポイントを付与する仕組みです。ポイントは公共施設の入場料の割引などに利用できます。収集データは人流の調整や三密情報の可視化などに利用されています。
精度の高い心拍データを取得
クアドリティクス(京都市中京区)はデスクワーク中や運転中、睡眠中など、日常生活を含むさまざまな場面の心拍変動データを取得、解析することによって、てんかん発作をはじめとして居眠りや睡眠時無呼吸症候群、心不全といったさまざまな身体的異変を予知できる技術を保有しています。デバイスは、スマートウオッチなど従来のウエアラブルに比べ精度の高いデータを取得します。これによって、身体的な変異の予測さえできれば社会的に支障なく暮らすことができる人のQOL(生活の質)向上に寄与します。
侵入検知など20種類の機能を搭載したAIカメラ
Avintonジャパン(横浜市西区)は、DX時代のIoTデバイス「エッジAIカメラ」を提供しています。カメラには物体検出・追跡や異常・侵入検知、視線や性別の推定など20種類の機能が搭載されており、その中身のアルゴリズムシステムを自社開発しています。手の平サイズのパソコンにAIモデルを搭載し、ネットワーク通信を介さずにAIを活用するため、通信費の削減とリアルタイムでの解析を実現する点が特徴です。大手印刷会社では安全管理の目的でエッジAIカメラを導入しており、危険エリア内に人を検知すると装置を自動的に停止するという機能を備えています。
在宅勤務や非接触の流れが進む中、業務の見直しは今後、加速する見通しです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大はAIの普及を加速させる可能性があり、AIベンチャーの活躍の場も広がることでしょう。
【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら