Fromモーニングピッチ

不動産テック系ベンチャーがDXを牽引 市場の透明度を高め資金を呼び込む

伊藤俊祐

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は不動産でオフィス、住宅、DX化という3つの領域に焦点を当てて概観を説明します。

 テレワークで空室率は5%台に

 オフィス市場ではCOVID-19の影響でオフィス面積の削減や本社機能を移転、分散化する動きが顕在化しています。

 その要因はテレワークです。パーソル総合研究所が昨年11月に行った調査によると、実施率は平均で24.7%でしたが、企業規模が大きくなるにつれて高まり、1万人以上の大企業は45%でした。

 これに伴いオフィス市場では、空室率が悪化しています。仲介大手の三鬼商事によると東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の今年3月の空室率は5.42%で、供給過剰感の目安とされる5%を2カ月連続で上回りました。昨年2月は過去最低だったのですが、わずか1年で急速に上昇しました。

 職住近接型シェアオフィスが人気

 こうした中、堅調に推移しているのがシェアオフィスで、大手不動産会社が積極的に展開し私鉄会社も沿線での開発に力を入れています。また、個室特化型やJRや私鉄の駅に設置した「エキナカタイプ」、働く場所を探すビジネスパーソンに対し会議室やホテルなどの空いているスペースとのマッチングを図るなど、新たな形態やサービスが相次いでいます。その中でも郊外や住宅地のサテライトオフィスは、“職住近接型”として人気を集めています。

 自宅の場合、オフィスに比べて生産性が低下する傾向にあります。このためザイマックス不動産総合研究所によると、シェアオフィスを利用している企業の4割以上が「より利用を促進したい」と回答しており、今後もシェアオフィス市場は堅調に推移するとみられます。

 郊外への住み替えは進まず

 次に住宅です。在宅勤務の広がりは、都心から郊外への移住を促すとみられていました。確かに空き家バンクを通じた空き家の売買が活発になっていますが、そうした動きは限定的です。

 その傾向は、アンケート結果から読み解くことができます。全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が昨年9月から11月にかけて実施した調査によると「働き方が変わることを視野に入れて住み替えを検討、実施」した割合は関東で10%に達しておらず、都市部から郊外へ住み替えを行った割合は全体の0.6%に過ぎません。在宅勤務の継続について会社の方針が定まらないうちに移住決断するのはリスクが大きいというのが、移住が進まない理由のひとつでしょう。

こうした中、ニーズが高まっているのが、テレワーク対応型の住空間です。ウオークインクローゼットを活用したりするなど、空間を有効活用するプランが相次いで登場しています。

 販売現場は非対面が加速

 販売現場のキーワードは非対面です。不動産業界は基本的に対面取引が主流でデジタル化が遅れていましたが、法改正によって着実に進んでいました。2020年になるとCOVID-19を契機に外出や人との接触を控えながら購入検討を進める層が増え、DX化が一気に加速しました。

 オンライン型ギャラリー

 変革の牽引役を担うのが不動産テックです。ローン・保証や仲介支援からIoT、リフォームに至る幅広い領域でデジタル化を支援しており、自宅で新築マンションのモデルルームを体験できるサービスや、オンラインで完結する電子入居申し込み、オンライン型のマンションギャラリー、マンション向けの検温機能付きの顔認証エントランスシステムなど、不動産テック系ベンチャーのサービスが注目を集めています。

 また、シェアオフィスや非対面販売などの各種ニーズに効率よく対応するため、大手不動産会社と不動産テック系ベンチャーが連携する動きも相次いでいます。こうした動きを踏まえ、今回は不動産テック系ベンチャー5社を紹介します。

 顧客の動きや提案状況を即座に把握

 Housmart(東京都中央区)は不動産仲介会社向けの営業支援システム「プロポクラウド」を提供しています。営業担当者に代わって顧客の希望条件に合う中古マンションの物件情報や、マンション売却に関するコンテンツを自動でメール送信します。サービスを開始して2年が経過しましたが、関東の1都3県で導入店舗は200を超えました。今後は中古戸建てと土地へと領域を拡大し、関西圏への進出も目指します。

 スマホでマンション自主管理

 マンション管理アプリ「KURASEL(クラセル)」を提供しているのがイノベリオス(東京都千代田区)です。マンションの大半は管理会社に全業務を委託する方式を採用していますが、人件費の高騰で委託が難しくなる恐れがあります。KURASELはスマートフォンによって簡単に自主管理を行えるサービスで、管理会社に任されている業務の一部を管理組合だけで簡単に行えるようになり、コスト削減につながります。

 家賃が最終的にマイホームに

 Minoru(東京都渋谷区)は、月々の家賃が最終的にマイホームになるという譲渡型賃貸住宅「家賃が実る家」を提供しています。ユーザーがWeb上で住みたいエリアを選定し、間取りを80種類の中から選択。プランニングを行い、新築の戸建てに賃貸借契約と贈与予約契約を締結して住む仕組みです。宮城県では移住の促進と一次産業の活性化を図るため「トマトを栽培するとマイホームがもらえる」といった取り組みを行っています。

 消防点検を可視化

 建物には年2回の消防点検が消防法によって義務付けられており、定期的に消防署に報告書を提出する義務があります。違反した場合は30万円以下の罰金や拘留措置が取られますが、点検実施率は決して高くありません。こうした課題の解決に向けてスマテン(名古屋市中区)が提供しているのは、建物事業者と点検業者を繋ぐサービスです。点検の状況をWeb上で可視化することによって、安心・安全性を高めます。

 最も有利なローンを探す

 住宅ローンを新規借り入れしたい、もしくは借り換えたいユーザーを対象に、全国の主要銀行から最も有利なローンを探して申し込めるサービス「モゲチェック」を提供するのがMFS(東京都千代田区)です。仕事の業界や内容、借入希望額など必要な15項目を入力することにより、ユーザーごとにカスタマイズされたお薦め住宅ローンランキングが表示されます。ユーザー数はこの1年で3倍になりました。

 AIやIoTが信頼性高め取引拡大

 米国は世界最大級の不動産市場で、中古住宅の取引量は日本の約9倍です。また、不動産取引の透明性評価は世界でトップです。不動産テック市場も拡大しており、市場を代表するZillow(ジロウ)、Opendoor(オープンドア)、REDFIN(レッドフィン)、COMPASS(コンパス)は、各社の頭文字を取り「ZORC(ゾーク)」と呼ばれ、不動産版のGAFAとして大きな存在感を示しています。日本の課題はAIやIoTなどの活用で透明度と信頼性を高め取引を拡大し、不動産資金を呼び込むことです。こういったサイクルの構築が米国のように不動産テック系ベンチャーの台頭を促し、不動産市場全体の拡大にもつながることでしょう。

大手新聞社で経済分野の取材に携わり、住宅・建設・不動産をはじめとしてエネルギー、自動車、財界、ベンチャー、機械、素材、環境問題などさまざまな業界・分野を約30年にわたって担当。2019年5月デロイトトーマツベンチャーサポート入社。主に対外向け原稿の執筆や監修、スタートアップのPR支援などを行っている。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら