デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「5G(第5世代移動通信システム)」です。テーマ概観を説明するのはイノベーションソリューション事業部の張麗娟(チョウ レイケン)です。情報通信会社に勤めていた時、MVNO(仮想移動体通信事業者)事業の立ち上げに携わったことがあり、その経験を踏まえ担当することになりました。
2035年まで累計1450兆円の経済効果
まず5Gの商用化をめぐる主要国の動向を見てみましょう。ドイツでは製造分野への応用、韓国はエンターテインメント分野を入口とするなど、各国の特性を生かしながらネットワークの整備が進められています。データ・情報サービスのHISマークイットなどの調査によると、2020年から2035年にかけて世界で約390兆円の投資が行われ、累計の経済効果は約1450兆円に達する見通しです。とくに恩恵を受けるのが製造分野です。
現在は探索期の最終コーナー
5Gのロードマップを見ると現在は探索期の最終コーナーにあり、自由視点の映像配信やクラウドゲームなどのBtoC向けサービスが主な応用領域です。今後、発展・成熟期に移行すれば工場や建設現場でのDX化、自動運転、スマートシティといったように領域はBtoBへと拡大します。
特徴は「高速大容量」など3つ
5Gの特徴は大きく分けると3つあります。その1つが高速大容量です。超高精細映像の転送が可能になりVR(仮想現実)などによって臨場感が大幅に向上、これまでICT(情報通信技術)の恩恵を受けにくかった分野でDX化が進みつつあります。スタートアップのホロラボはMR(複合現実)を活用したソリューションを提供、製造業や建設業での技術伝承を支援します。
2つ目が高信頼低遅延です。エッジコンピューティングの活用で遠隔制御の遅延が解消され、安全性をきわめて重視する応用分野に大きな影響を与えると思われます。とりわけ高精度な制御が求められる自動運転では、5Gが必須と言われています。ただ、5G基地局の整備に時間を要しますので、まずはスマートファクトリーや建設、物流といった分野で5Gの導入が進むとみられています。
3つ目が同時多接続です。関連産業の成熟度が高いので、5Gの仕様が固まればスマートシティの社会実装が加速することでしょう。スタートアップのシンメトリーは静岡県のオープンデータを活用し、社会インフラの維持管理を効率的に行う実証実験に取り組みました。
相次ぐ提携
次に5Gを巡る事業者の動きを見てみます。グローバルでは4Gの恩恵を受けた米中の大手IT事業者が中心となり、5Gの普及による再成長を狙って通信キャリアとの戦略提携やスタートアップへの出資・共同開発などを活発に進めています。
具体的には通信キャリアと共同でオープン仕様の基地局の開発に着手したり、エッジクラウド基盤を強化し、スマートファクトリーやクラウドゲームなど、5G関連のソリューションの提供を支援したりする動きが顕在化しています。
日本では5Gエコシステムの形成に向け、政府と大企業、スタートアップによる実証実験や協業、投資が行われています。東京都は自治体として初めてローカル5Gの免許を取得し、東大などと提携しています。また、大手の通信キャリアを中心に異業種パートナーと提携し、5Gならではのアプリケーションと新たなビジネスモデルの創出に取り組む動きも顕在化しています。
活用目的を定めておくことが重要
最後に5Gの活用を検討する際の重要なポイントを指摘しておきます。それはエンドユーザー側の活用目的をしっかりと定めておくことです。「やってみないと分からないので、取り敢えずやってみよう」といった考え方はとても危険です。目的なしで実証実験を行った場合、よい結果だったのか悪い結果だったのかを判断できず、本格導入に進められないまま終了するリスクが高くなるからです。こうした事態を防ぐため、目的を明確にした上で、各企業ならではの強みに根差したビジネスモデルの検討とパートナーの選定を行うことが大変重要です。
今回はサービスアプリケーション、プラットフォーム、ネットワークソリューション、デバイスという4つの領域から5社を紹介します。
東京とラスベガス間でロボット制御
アプトポッド(東京都新宿区)は、低遅延の大容量データストリーミングを実現する高速IoTのプラットフォームを提供しています。2018年のリリース以降、モビリティやロボティクス分野を中心に、約30社・50のプロジェクトで採用されています。具体的な事例は東京とラスベガス間のロボット遠隔制御や、AIを活用した工事現場箇所の自動検知などです。
屋外で使えるARスマートグラス
AR(拡張現実)スマートグラスは、ブラウザが使えず映像が暗くて重いといった問題点を抱えています。HMS(福岡市中央区)が提供するのは、こうした課題を解決したスマートグラスです。屋外の現場でも使える鮮明な画像が特徴で、重量は150グラム以下と従来品の4分の1程度の軽さを実現しました。5Gとの組み合わせによって、業界ごとにプラットフォームを構築していきます。
空中からキュウリを自動収穫
AGRIST(宮崎県新富町)は、AIを搭載したピーマン・キュウリの自動収穫ロボット「L」の開発、販売を行っています。地上走行型とは異なり、ビニールハウス内に張り巡らせたワイヤーをロープウェイのように移動しながら収穫する点が特徴です。ロボット自体は5Gを活用し、農場の画像データを集めて収穫の認識精度を上げていきます。こうした取り組みによって、総合的に営農を支援するソフトの開発を目指します。
メッシュ技術でケーブルを大幅削減
PicoCELA(東京都中央区)は、網の目のように張り巡らせるメッシュ技術を活用してLANケーブルを大幅に削減、広域のWi-Fi環境を低コストかつ短期間で整備します。例えば東京ドーム4個分のスキーゲレンデでは85%分のケーブルを削減し工事費を50分の1に削減しました。ロックフェスティバルに設置したフードスペースは、1時間に2000ユーザーが同時接続できる規模ながら設営は3時間で済みました。
医療データを3次元で“体験”に変える
Holoeyes(東京都港区)は現実と仮想世界を融合するXR(VRやARなどの総称)技術を活用、医療データを3次元で「見える」から「体験する」に変える手術支援サービスを提供しています。CTスキャンなどの画像から構築された3次元データを、VRやARデータとして表示することが可能で、手術前のシミュレーションや症例の検討に用いられています。また、臨床の解剖を学べるスマートフォン向けVRアプリも提供しています。
5Gはこれから、本格的な発展段階に突入します。これに伴い、スタートアップの台頭にも拍車がかかるとみられています。
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