Fromモーニングピッチ

女性の健康向けサービス×技術 フェムテック系ベンチャーが新市場を切り開く

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「FemTech(フェムテック)」で、テーマ概観を説明するのは海外事業部のセントジョン美樹です。米シリコンバレーに在住し日米でフェムテック市場の開拓やプロジェクトに携わっています。

 ライフスタイルと価値観で設計

 FemTechはFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた言葉で、女性の健康向けサービスを、現代のライフスタイルと価値観で再設計したソリューション製品群の総称です。デジタル化社会において個人の健康リテラシーが向上し共働き世帯が増加するなど、女性を取り巻く社会的環境や役割、価値観が進化したことが注目を集める要因だとみています。

 フェムテックは妊娠・出産、育児、不妊治療、更年期障害など特定のライフステージニーズに対応するものから、避妊や月経管理、乳がんなどの疾病といった婦人科一般分野、セクシャルウェルネスといったものまでを幅広く対象としています。

 新型コロナで市場は大きく拡大

 世界のフェムテックの市場規模は2019年に8200億円でしたが、2025年には5兆円規模にまで拡大すると予測されていました。COVID-19の影響を受けてデジタルヘルス市場そのものが急拡大しているため、その予想を大きく上回るとみられています。

 ここでフェムテック市場の足跡を振り返ってみましょう。欧米では2010年代にスタートして2017年頃にはVC(ベンチャーキャピタル)投資の1カテゴリーを確立するまでに成長しました。当初は月経・妊娠系が中心のフェーズでしたが、初潮前や更年期など全ライフステージを網羅するソリューションが出そろっています。今後はさらに、医療やバイオテックと連携した研究やサービスが期待されており、その潜在力はさらに拡大するとみられています。

 欧米の製薬会社なども関心

 そのひとつの事例として米国のヒムズ・アンド・ハーズという企業を紹介しましょう。SPAC(特別買収目的会社)との合併を通じて創業3年でニューヨーク証券取引所に上場した全米でも注目のスタートアップです。D2C(Direct to Consumer)の物販から、COVID-19の自宅用検査キット、オンライン診療・調剤と幅広く事業を展開しており、世界から注目を集めています。また、欧米の大手製薬会社や生命保険会社もフェムテックの市場性に注目し、積極的に投資や協働を行っています。

 日本はようやく元年

 日本では2019 年から徐々に広まる中で、時代に合わない規制なども顕在化し、2020年10月には「フェムテック振興議員連盟」が発足しました。企業の健康経営の視点からもその重要性が認識され、ようやく基盤が整備されつつあります。2020年前後がフェムテック元年といえるでしょう。

 企業経営とサステナビリティやダイバーシティという領域は、切っても切り離せない関係にあるということが、2021年に入って鮮明になっています。ESG(環境・社会・ガバナンス)や健康といった分野ももちろんそうです。米国では子育て世代への投資を行う企業群は、そうでない企業よりも売り上げが5.5倍も伸びたという大規模な調査結果が出ています。フェムテックはデジタル時代の企業経営、新規需要の創出にとっても不可欠なテーマとなっています。

 今回は女性向けヘルスケアの在り方に対して一石を投じるようなリーダー的存在の5社を紹介します。

 企業内“保健室”サービス

 ネクイノ(大阪市北区)は、婦人科に特化したオンライン診察プラットフォーム「スマルナ」の運営を行っています。国内最大級の規模で、ピルのオンライン診察や処方を行ったり、「スマルナ医療相談室」という名称で助産師や薬剤師が相談を受け付けています。新たに展開しているのがBtoB向けサービス「スマルナWomen’s保健室」です。企業内の保健室のような存在で、従業員のプライバシーを保護しながら相談に応じています。

 腸内環境ごとのサプリ

 ビタミン供給や免疫系活性化、発がん性物質分解を行い、腸内環境を整えてくれる細菌叢(さいきんそう)は、女性の健康維持にも非常に重要です。サイキンソー(東京都渋谷区)は、菌叢データから「次世代のライフスタイル」を提案する企業です。腸内環境タイプに応じてパーソナライズ化されたサプリを提供するサービス「フローラプラス」を事業展開しています。

 子宮内環境を改善するサプリ

 子宮や膣内に存在する菌の環境(フローラ)は、女性や胎児を感染症から守り、妊娠と重要な関わりを持ちます。Varinos(東京都江東区)はそうした子宮内の菌叢の検査をする企業で、その改善につながるサプリメントを開発、特許を取得しています。体外受精件数が世界一という日本ですが、体外受精の成功率を高める要因として子宮内菌叢との関連性を研究しています。

 患者が治療法を選択

 vivola(東京都渋谷区)は、不妊治療患者向けのデータ検索サービス「cocoromi」を提供しています。不妊治療は自由診療であるため、患者側に多くの判断が委ねられます。AIにより自分と似た人の成功データや治療方法を参考にしながら、患者が納得した治療法を選択できます。4月には地域医療と生殖医療の専門医を繋ぐ診療システムを開始する予定です。

 チャットで女性医師に相談

 TRULY(東京都渋谷区)は、更年期や性の悩みに女性医師が答えるオンライン相談サービスです。女性2人に1人が50歳以上の時代、信頼できる情報を知り、調べ、相談できるのが特徴です。女性の社会進出が進み、管理職昇進といったチャンスも増えていく中で、その年代にちょうど更年期(女性ホルモンによる、カラダとココロの不調や悩み)が多くなります。現代女性の新しいからだケアです。

 日本は女性の社会進出がまだまだ遅れています。この問題の改善を図るためにも、フェムテック系ベンチャーのさらなる活躍が望まれます。

SAP、Google等のグローバル・テクノロジー企業に20年ほど勤務し、渡米。2018年からDTVS北米事務所統括として、国内外のオープン・イノベーションに関与する。企業文化変革・DX、新規事業創出、ダイバーシティ&インクルージョン、働き方改革等のアドバイザリーを務める。欧米の女性起業家やフェムテックコミュニティに所属、日本のベンチャーのグローバル支援も行う。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら