デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。
最優秀賞はインテグリカルチャー
まず、1月28日に開催した年間のアワードイベント「Morning Pitch Special Edition 2021」の結果を報告します。このイベントは今年で8回目となり、当日は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催が続いているモーニングピッチと同様、リモート形式で進めました。2020年に登壇した225社の中から年間優秀企業としてノミネートされた8社がピッチを行い、細胞培養肉の実用化を目指しているインテグリカルチャー(東京都新宿区)が年間最優秀賞に選ばれました。
ポテンシャルに期待
世界の人口は途上国を中心に増加しており、食料需要も増えています。また、肉の生産工程では地球温暖化の原因のひとつとされる二酸化炭素(CO2)を大量に排出し水の消費量も多いなど、環境負荷の大きさが持続可能性の点で大きな課題となっています。このため解決策のひとつとして細胞培養肉に対するニーズが高まっており、同社では独自技術での大量生産に向けた計画を進めています。審査員の1人であるインテグラルの佐山展生代表取締役パートナーは選考理由について「ポテンシャルが評価されたため」と述べました。
当日は3時間という長時間にかかわらず常に1000人以上の方に視聴して頂きました。その視聴者による投票に基づいた「オーディエンス賞」は、JR東日本から誕生した、無人決済システムを開発するTOUCH TO GO(東京都港区)が選ばれました。
コロナで消費行動の変化に拍車
では今回のテーマ「コンシューマー特集」の概観について説明します。担当するのはNextCore事業部長の成田大輔で、主に新規事業を担っています。
消費志向は年々変化を遂げています。とくに若者の動きは顕著で、所有から利用へと価値観が変わっているほか、体験やシェア、レンタルへの関心が高まっています。その背景にはデジタル消費への慣れや物の飽和による所有欲の弱さ、経済不安による節約志向の高さがあるようです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はこうした消費行動を、加速度的に変えようとしています。例えば56歳以上の層はオンラインによる食料雑貨の購入は苦手とされていましたが、COVID-19を契機に当該層の3人に1人が購入行動を起こしたとの調査があります。
また、若年層だけでなくあらゆる層でエンターテインメントとメディアに対する支出も増加傾向に転じました。消費の価値観が変わりつつあったところに、具体的な行動を促すエンジンが加わったことが急速な変化の要因と言えるでしょう。
2000年以降を振り返ると、2009~2012年も消費者の行動が大きく変化した期間でした。引き金はスマートフォンやアプリの台頭です。
BtoCベンチャーが高評価
これに伴いスタートアップ市場にも、2009年から顕著な傾向が表れています。その指標はバリュエーション(企業価値評価)です。
世界のIPO(株式公開)の動向を見てみると、法人向け(BtoB)事業を展開する企業よりも一般消費者を対象にするBtoC企業の方がバリュエーションは高い傾向にありました。境目となったのは2009年です。2008年までのBtoC企業はBtoB企業に比べてバリュエーションは1.5倍だったのですが、2009年からは2.7倍と格差が大きくなりました。2009~12 年に設立もしくは事業を固めたBtoCベンチャーが、IPO市場を牽引したとみられます。
大転換が生じた期間というのは、コンシューマー向けビジネスに大きなエンジンがかかるタイミングでもあります。これからの数年間は、COVID-19によって大きな転換点を迎え、イノベーションに拍車がかかる可能性が大です。
消費者の価値変化を適切に把握
このためCOVID-19による新たな生活行動の傾向を理解し、それによる消費者の価値変化を適切にとらえた上で新たな事業を見極めていくことが重要になってきます。具体的にはわれわれの行動がどのように変容したのかという部分と価値の変化が掛け合わさって、「どういったコンシューマービジネスが誕生するのか」といったことをきちんと認識しておくことが必要です。
COVID-19によって消費者の価値に対する考え方は(1)所有から利用価値を重視(2)コミュニティやつながりを強く希望している人の増加(3)環境問題など社会的関心への高まり(4)健康志向のさらなる高まり-といった事象に結びついており、これらがビジネス発展のためのカギになると考えています。
薬をロッカーで受け取り
ベンチャーとの協業によって、価値の変化に呼応した新しいビジネスも誕生しています。スマートコインロッカーを手掛けるSPACER(スペースアール)は神奈川県を中心にドラッグストアを展開するクリエイトエス・ディーと連携。病院での感染リスクを懸念する消費者の声を踏まえ、処方された薬をロッカーで受け取れる事業を始めました。
また、クラウドワークスとOPSIONが資本提携し、クラウドオフィス事業を開始しました。テレワークで失われたひとつの居場所を共有する体験価値を、離れていても実現できるサービスです。
コンシューマー事業の領域はヘルスケアやレジャー、ハウジング、ファッションといったように幅広いですが、転換点という時代の中から大きく羽ばたくことが期待される5社を今回は紹介します。
AI相手の英会話アプリ
日本人は外国人相手に話しかけることが苦手な国民性で、アジア各国の中で英語力は最下位です。そうした現状を踏まえ、人工知能(AI)を相手にストレスフリーな形で英会話を行えるアプリを提供しているのがスピークバディ(東京都港区)です。機能も充実しており、フリートークだけでなく音声認識や英作文の添削も行い、英会話レベルも判定します。月額1950円という価格帯も魅力です。
フォロワーの購入で報酬
アパレル業界は来店客の大幅な減少で苦戦を強いられておりEC(電子商取引)サイトの活用法が、より重要になってきます。SPRING OF FASHION(東京都渋谷区)のショッピングSNS「STYLISTA」は、SNSユーザーが商品を販売し、価格の約10%分を成果報酬として得られるサービスを提供しています。サイト内の商品を選びフォロワーに紹介し、実際に購入されると報酬が発生する仕組みです。
AIで子供の写真を瞬時に選択
千(セン、東京都千代田区)は、幼稚園や保育園の写真に関するサービスを撮影から集金、印刷、納品までをワンストップで代行するサービス「はいチーズ!」を提供しています。写真を選ぶ際にはAIによる顔検索機能によって、自分の子供を自動的にピックアップできるため、保護者はネットから手軽に購入することができます。すでに7000団体に対してサービスを提供しており、COVID-19を契機に問い合わせも急増しています。
IP軸にエンタメ業界で事業
グリッジ(東京都港区)はIP(知的財産権)を軸にエンターテインメント業界で事業を展開しており、主に次世代型音楽レーベルとYouTubeの音楽ラジオを運営しています。レーベルで提供した中には、TikTokジャパンで流行語大賞を受賞した楽曲もあります。音楽の影響力を活用してさまざまな企業と連携しながらのプロモーション活動に力を入れており、ファッションや飲料、ゲームなどさまざまな業種と協業を進めていく考えです。
自転車のWebメディア
自転車創業(東京都新宿区)は、日本最大級の自転車Webメディア「FRAME」と「マサルでもわかる自転車保険」を運営しています。サイトにユーザーを集客し、保険・物販と広告によってマネタイズするビジネスモデルで、FRAMEは記事と動画を合わせて300万ビューを誇ります。COVID-19によって密を避ける移動手段として自転車に対する注目度が高まっており、外部との協業で事業拡大を目指します。
COVID-19を契機に拍車がかかった消費行動の変化は今後多様化するとみられ、コンシューマー向けベンチャーの活躍の場は広がることでしょう。
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