デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はCOVID-19を契機として顕在化した「各産業のニューノーマル」で、デジタルトランスフォーメーション(DX)に焦点を当てて展開します。テーマ概観を説明するのはCOO(最高執行責任者)の木村将之です。米シリコンバレーを拠点として日本と往来しながらビジネスモデルの変革などをテーマに、大企業やスタートアップを支援しています。
環境問題への意識の高まり
COVID-19によって大きく変化したのは人々の意識です。とくに環境問題や危機を乗り越えるためのインフラに対する意識が高まったという感じです。それを支えるDXが一気に加速したと理解しています。
遠隔サービスに商機
私たちの生活の中にはリモートワークやデリバリーといった遠隔サービスが入り込んでおり、ここに新しいビジネスチャンスが生まれています。現在はデジタルに軸足を置いていますが、ニューノーマル下では個々人がライフステージやその時の環境に応じ、リアルとデジタルのいずれかを選択するようになるのではないでしょうか。
2年を2カ月で達成
実際、こうした社会の実現に向けたスピードは速く、米マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)は「2年という期間を必要としたDX化が、わずか2カ月の間に起こっている」と話しています。例えば金融や医療、働き方といった領域ではCOVID-19前に比べると数倍にも上るユーザーがデジタルサービスを活用しています。本日取り上げるモビリティや製造、ソーシャルメディア、エンターテインメントといった分野でもまったく同様の傾向にあります。
本業部分でもDX化を推進
DX全般で見るとこれまでは、オペレーションやビジネスの新しい領域の一部分に対してPoC(概念実証)レベルで取り組むケースが多かったのですが、本業周辺の部分をターゲットに全社を挙げて社会実装まで視野に入れて取り組む、といった方向に進化しているとみています。
モビリティの部分では安全性や“3密”の回避といったところに関心が集まり、交通機関の選択に非常に慎重になっています。そこの選択肢が大きく増えたことが変化だと思っていて、「乗り換えをしない」「単一の交通手段に頼る」といった傾向は減少しています。
感染状況に応じた交通経路を提示
交通機関の選択を最適化するためにはデータに基づいて判断する必要がありますが、ここで大きなトレンドが起こっています。インテルは交通データのプラットフォームを提供するイスラエルのMoovitを買収しています。パンデミックの状況を踏まえどういった経路選択が最適なのかといった部分までデータを拡大し、最適な意思決定のサポートを行っています。
製造業の場合、COVID-19の前だと工場が聖域で「人は減らしたくないしデータは出したくない」といった思いが強かったのですが、「そうは言っておられず、効率よく進めなければならない」とデータを提供し始める動きが出ており、自動化を受け入れる土壌も整備されつつあります。これを受けてさまざまなデータを吸い上げ統合解析しAIで分析、現場にフィードバックするという流れが起きているのだと思います。
SNSの利用が増える
ソーシャルメディアに関しては多くの人がSNSの利用を増やし、「友達や家族の情報やローカルコミュニティの情報を確認したい」といったニーズが非常に高まっています。例えば世界最大のご近所SNSアプリを提供する米Nextdoorはマネタイズの部分で苦戦をしていましたが、最近では300万ドル程度の資金調達を行うなど、非常に勢いが出てきました。地図上で「私が買い物に行きます」と手を挙げるなどして住民同士で助け合えるような機能を追加したり、地元の飲食店を応援できるようにするなど、地域にとって不可欠なインフラとして進化しています。
時価総額が7倍に
エンターテインメントの世界でもリアルからオンラインへのシフトが進み、課金額も増加する傾向に拍車がかかっています。例えばPelotonは家の中でバイクを使ったトレーニングを行えるサービスを提供していますが、有料会員が2倍超になって時価総額も7倍の約5兆円になりました。また、ストリーミングサービスも大きな伸びを示しています。
こうした動きを踏まえ、今回はDXのリーダー格となる企業を紹介します。
MaaSと不動産データの掛け合わせ
次世代移動サービスのMaaS(マース=モビリティ・アズ・ア・サービス)に取り組む企業や自治体に対し、コンサルティング事業や価値を最大化する技術ソリューションの開発、提供を行っているのがMaaS Tech Japan(東京都千代田区)です。データプラットフォーム基盤を構築しており今後は周辺領域である不動産、小売りや観光、サービスなどのデータと連携を推進し、事業領域の拡大を図ることを目標に掲げています。
スマートファクトリーを輸出
製造現場の人手不足の解消と競争力強化を図るため国内工場のスマートファクトリー化の支援に取り組んでいるのが「Team Cross FA」という組織横断型のコンソーシアムを運営するFAプロダクツ(東京都港区)です。東京都心部にショールームを開設したのに続き、2021年には福島県南相馬市に最新鋭のスマートファクトリーを建設する予定で、次世代モノづくりの基幹工場と位置付けます。一連のノウハウを海外に輸出することも検討しています。
映画の口コミサービス
映画やドラマ、アニメの口コミサービス「Filmarks(フィルマークス)」を提供するのが、つみき(東京都目黒区)で、どこに行けば観たい作品を鑑賞できるかについて、すぐに調べることが可能です。すでに100万人以上のユーザーが存在し、累計1億件以上のレビューが集まっています。飲食やアパレルなど異業種との連携に力を入れており、ドライブインシアターや「映画を観ながらアイスを食べよう」といったキャンペーンなども企画しています。
故障箇所を迅速に発見
モンスター・ラボ(東京都渋谷区)は世界16カ国・25都市の人材を活用し、デジタル領域でビジネス課題のソリューションを提供するコンサルティング事業などを展開しています。例えば大手農機メーカーとの取り組みでは、スマートフォンのカメラで重機を写してエラーコードをAR(拡張現実)で可視化。担当者が迅速に故障箇所を発見することで、オペレーションの効率化を図れるようになりました。
「丁目」を登録、近隣情報を収集
月間で200万人が利用する日本最大級のご近所SNSを運営しているのがマチマチ(東京都渋谷区)です。登録時に「丁目」を登録することで、実生活に役立つ近隣エリアの情報が可能になりました。大型台風の接近時にはマチマチを用いて情報発信を行い、効率的な避難ができました。ユーザーの8割は20~40代の子育て世代の女性で、横浜市やさいたま市など全国31の自治体と連携し、地域コミュニティの活性化に寄与しています。
テレワークに代表される新しい働き方やニューノーマル下での生活様式はさらに広がる見通しで、DX系ベンチャーの活躍に期待が高まります。
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