デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。
2020年はフィンテックやAI、働き方改革など45テーマを設定し225社が登壇しました。その中から年間最優秀賞を決定するアワードイベントが1月28日に開催される「Morning Pitch Special Edition 2021」です。
ラクスルも過去に最優秀賞
イベントは今年で8回目になり、過去にはインターネット印刷のラクスルや聞き取りやすいスピーカーを製造するユニバーサル・サウンドデザインなど7社が最優秀ベンチャー賞を受賞しています。
今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催が続いているモーニングピッチと同様、リモート形式で進めていきます。年間優秀企業としてすでに8社がノミネートされており、当日のピッチを通じ2021年に活躍が期待される日本一のベンチャーの座を競い合います。
審査員は日本有数のベンチャーキャピタリストや経営者、メディア関係者らが務めます。また、オープンイノベーションに積極的に取り組む大企業も表彰します。
では、アワードイベントに臨む8社を紹介しましょう。
2020年はCOVID-19を受けてテレワークが進むなど企業の働き方が大きく変化しました。これに伴い、デジタル技術で業務改革を進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)が広がりました。その傾向を裏付けるように、DX領域のベンチャーがファイナリストとして名を連ねています。
SaaS同士の連携を円滑化
Anyflow(東京都港区)はSaaS(ソフトウエア アズ ア サービス、サース)特集で登壇しました。パッケージで提供されていたソフトウエアをインターネット経由で利用できるサービスがSaaSで、年間の成長率は10%を上回っています。今や1社当たり10~20個のSaaSを使うことは当たり前になりつつあり、市場規模は今後も順調に拡大するとみられています。一方で課題も残っています。それはSaaS同士の連携によるデータの統合です。エンジニアは自社製品の保守・運営が最優先になるため、連携作業は後手になりがちで時間も要するからです。Anyflowが提供しているのは、エンジニアでなくても連携できるようにしたプログラミングなしのサービスです。
2020年春には日本でも、第5世代移動通信システム(5G)のサービスが開始し、5G元年として脚光を浴びました。データ通信の速度は既存規格の100倍にも達するため、DXを加速し今後の社会や産業を支える基盤になるでしょう。5G特集からは登壇した2社が選ばれています。
気軽に自由視点映像を視聴
対象物を360度どこからでも見ることができる自由視点映像は、映像処理の負荷が大きいためWeb上での配信や再生は難しいとされていましたが、この問題を解決したのがAMATELUS(東京都渋谷区)によるサービス「Swipe Video」です。画面をスワイプすることによって自由に視点を切り替えながら映像を視聴できるシステムで、国際特許も取得しています。技術教育やスポーツ、エンターテインメントをはじめ、COVID-19の影響でイベントの中止が相次いだ業界でも導入の動きが活発です。先行優位性を活かし、5G回線がインフラ化するとみられる2025年までに、さらなる市場シェアの拡大を目指します。
1台で警備や点検、清掃を行う
Mira Robotics(川崎市高津区)は自分の分身のように操作できる次世代型アバターロボット「ugo(ユーゴ-)」を展開しています。2本のアームと高さ調整によってさまざまな業務を行えるのが特徴で、AIによる学習機能によって同じ稼働条件下であれば自動モードでの操作も可能です。ターゲットとなるのは人材不足と高齢化が深刻なビルメンテナンス業界で、1台のugoによって警備や点検、清掃、案内といったさまざまなビル管理業務を行う「ワンロボット・マルチユース」を実現します。また、インターネット環境さえあれば、どこからでも遠隔操縦が可能なため、地方や海外の在住者でも対応できます。
VR空間でコミュニケーション
Synamon(東京都品川区)は現実と仮想の世界を融合させて新しい体験を提供する「XR(AR/VR/MR)」特集で登壇しました。サービスはVR(仮想現実)空間を複数の人で共有できるBtoB向けの「NEUTRANS BIZ(ニュートランス ビズ)」です。その場にいるかのようなコミュニケーションが可能で、リモートワークの環境下でも会議やセミナー、研修から企業説明会、面接に至るあらゆるビジネスシーンで活用できます。また、会議の時に使ったホワイトボードなど、後から閲覧したいものも保存できます。テレワークではコミュニケーションやマネジメントの質の低下が指摘されており、こうした課題を克服するサービスと言えます。
対面以上の商談を可能にする
ベルフェイス(東京都港区)は、リモートワークを取り入れる企業が増えたのを受けて4月に開催した「リモートサービス」特集に登壇しました。電話と端末を組み合わせて利用することで対面以上の商談を可能にするオンラインツールを販売しています。アプリケーションのインストールやURLの発行、事前の共有などが不要なため、ITリテラシーを問わず、誰でもスムーズに使える点が特徴で、COVID-19を契機に普及が進むオンライン営業を支えます。今後はセールスデータ領域に着手。商談の様子は録画しておくこともできるので、ブラックボックス化していた営業パーソンのスキルの可視化、解析に注力します。
本人確認をデジタル上で
政府はデジタル庁の創設に向けて準備を進めており、「行政サービスがDXを推進するに当たっては、スタートアップの機動性を積極的に活用する必要がある」との政策提言も行っています。それを踏まえ10月に開催したのが行政DX特集です。
TRUSTDOCK(東京都千代田区)は本人確認をデジタル上によって行う専門機関で、デジタル身分証アプリを提供しています。マイナンバーカードの公的個人認証と、電子的に本人確認手続きを行うeKYCの双方に対応しており、運転免許証やパスポートなど写真付き身分証明書7種類に対応しています。また、身分証以外では携帯電話の契約情報や、銀行口座を介した本人確認が可能です。本人確認書類の提出専用JavaScriptを活用すれば、あらゆる業種のサービスで本人確認が簡単に導入できます。行政側の本人確認手続きに要するコストを削減するため、関係省庁などと連携し、ガイドラインの策定などに携わっています。
無人決済店舗システム
JR東日本から生まれた無人決済システムを開発するTOUCH TO GO(東京都港区)は大企業発ベンチャー特集に登壇しました。無人決済システムは朝や移動の合間といった忙しい時間帯でも、短時間で買い物を済ませることができ、省人化によって店舗の運営コストも削減できます。設置カメラなどの情報から、来店者と手に取った商品をリアルタイムに認識し、出口付近の決済エリアに立つとディスプレーに購入商品と金額が提示され、電子マネーなどで買い物が完了する仕組みです。スタッフは直接的に接することがないので、COVID-19によって関心が高まっている非対面型の象徴的な事業モデルといえます。
培養コストを1万分の1に
2020年の最終回である「フード特集」から名乗りを上げたのは、培養コストを従来の1万分の1に抑制することで細胞培養肉の実用化を目指しているインテグリカルチャー(東京都新宿区)です。すでにガチョウ、牛、エビなどで細胞培養の実績があります。商業パイロットプラントの開発を進めており、2021年12月には培養フォアグラの提供を目指しています。素材メーカーや製薬メーカーとの連携による培養毛皮や培養臓器の生産などを視野に入れており、石油化学コンビナートの規模に相当する培養設備構想の実現に向け邁進しています。世界の人口は途上国を中心に増加しており、食料需要も増えているだけに、早期の本格的な実用化が望まれます。
ベンチャー育成で産業の新陳代謝を
米国ではここ二十数年の間に設立された企業が時価総額の上位10社に名を連ねています。経済の活性化を図るには日本でも米国と同様、産業の新陳代謝を促すことが必要となります。そのためにもベンチャー企業の創出・成長を後押しするのは重要なテーマ。Morning Pitch Special Edition2021を通じ、日本経済の新たな牽引役となるベンチャーの誕生に期待が高まります。
【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら