デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「フード」です。テーマ概観を説明するのは、イノベーションソリューション事業部の坪井大輔です。FoodTech領域を含め第一次産業に関連したベンチャーの協業支援や、大企業の新規事業創出支援などに携わっています。
今回は食領域を巡る国内外の新たな動きを振り返ってみます。
20年、米IPOで最大級の調達額
海外では米国の料理宅配サービス最大手、DoorDash(ドアダッシュ)の動きに注目が集まりました。ニューヨーク証券取引所への新規株式公開(IPO)で33億7000万ドル(約3500億円)を調達し、2020年に米国市場でIPOを果たした企業としては最大級の調達額となったからです。
植物肉で海外攻勢
国内ベンチャーの動きも活発です。植物肉「ミラクルチップ」を製造するDAIZ(熊本市中央区)が10月に、国内外で飲食事業を展開するきちりホールディングスと資本業務提携を締結しました。DAIZはすでに10億円を超える調達を行っており、今回の提携で外食のチャネルを確保。生産体制の増強や海外を見据えた活動を本格的に進めていきます。
クラウドキッチンのプラットフォームを展開するcookpy(東京都港区)は11月に「プレシリーズAラウンド」という領域で資金調達を実施しました。同社は稼働率の低い既存飲食店のキッチンスペースを活用して、デリバリーとテイクアウトを行っています。
植物由来肉の販売を強化
大企業も積極的に動いています。世界有数の一般消費財メーカーである英ユニリーバは11月に発表した未来食品戦略の中で、植物由来の肉や乳製品の売り上げを2027年までに10億ユーロ規模(約1250億円)に引き上げる方針を掲げました。同社は植物肉のハンバーガーを日本でも販売しているベジタリアンブッチャーを傘下に収めており、米国の大手ハンバーガーチェーン、バーガーキングと提携しています。
国内はリスクマネーの供給がカギ
一方、フード領域のイノベーションを担う国内の大企業の間でもスタートアップ熱が高まり、ファンドを立ち上げる動きが相次いでいます。
今後、こうした動きを加速するためのポイントのひとつとなるのが、さらなるリスクマネーの供給です。日本と米国の間では食に関する投資機関の数に、かなりの開きがあります。この分野にリスクマネーが流れてこなければスタートアップの成長は厳しいだけに、日本の食の競争力に影響してくるのではと思っています。
大手食品会社のアセット開放を
日本の大手食品会社のアセットを開放することで、スタートアップが事業経験を積み重ねていくこともポイントとなるでしょう。また、他産業との接点が多いという特性を生かし、異業種間のコラボレーションを積極的に展開することも重要です。
今回はサプライチェーンに応じて、フード領域を素材、生産加工、流通、喫食体験という4つに分けており、その中から5社を紹介します。
高品質のカカオ豆を生産
高品質カカオと呼ばれる「ファインカカオ」の生産量は世界全体の5.7%に過ぎず、多くのカカオ農園では低品質なカカオ豆が栽培されています。美味しいチョコレートを届けたいという考えに基づき、事業を展開しているのがフーズカカオ(東京都渋谷区)です。従来はひとつの地域にひとつの風味しか作ることができませんでしたが、風味を作り分けられる技術を開発したことで、単一地域でも商品のバリエーションを持つことを可能にした点が特徴です。
オンライン飲み会を楽しく
法人向けのフードデリバリーサービスを提供しているのがノンピ(東京都港区)です。COVID-19の影響でオンライン飲み会が急増していることを受けて、リアル飲み会の課題をデジタルで解決する事業に力を入れています。具体的には共通の料理と飲み物を1箱にしたフードボックスを全国に届けることにより、最大で3000人までのオンライン飲み会に対応できるようにしています。オンライン飲み会専用のビデオチャットの開発も進めており、BGMを流したりする機能も考えています。
食べたご飯のレビューを蓄積
月間170万人の利用者数を誇るグルメコミュニティアプリを運営しているのがSARAH(東京都台東区)で、メニュー単位によって、検索・投稿を行える点が特徴です。また、「テイクアウトでカレーを食べたい」といった検索があれば、提携先の店舗に顧客を誘導することが可能です。投稿データを販売するサービスも行っており、口コミのキーワードを分析することにより、食品メーカーが製品開発に活かすことができます。
熟成肉・魚を短時間で作るシート
包むだけで熟成した肉・魚を短時間で簡単に作ることができるシート「エイジングシート」を明治大学と共同で開発したのがミートエポック(川崎市多摩区)です。発酵菌を付着したレーヨン素材のシートが腐敗菌をブロックし、菌の成長過程でより美味しく変化させることができます。発酵菌の活用法として物流分野への応用やチーズへの転用、発酵大豆などを視野に入れているほか、発酵大豆を使った代替肉の生産も検討しています。
培養コスト、1万分の1を目指す
培養コストを従来の1万分の1に抑制することで細胞培養肉の実用化を目指しているのがインテグリカルチャー(東京都新宿区)です。すでにガチョウ、牛、エビなどで細胞培養の実績があります。商業パイロットプラントの開発を進めており、2021年12月には培養フォアグラの提供を目指しています。素材メーカーや製薬メーカーとの連携による培養毛皮や培養臓器の生産などを視野に入れており、石油化学コンビナートの規模に相当する培養設備構想の実現に向け邁進しています。
世界の人口は途上国を中心に増加しており、食料需要も増えています。中長期的な外部環境の変化に対応し、世界中の人が良質な食料を適正価格で入手、食の楽しみを享受できるようにするためにもフードベンチャーのさらなる活躍が望まれます。
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