Fromモーニングピッチ

次世代ファーム、ロボット、バイオ…アグリ系ベンチャーが日本の農業を支える

青砥優太郎

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「アグリ(農業)」です。テーマ概観を説明するのは、イノベーションプロデュース事業部の青砥優太郎です。大手企業に対し農業分野での新規事業の創出支援やアグリベンチャーへのハンズオン支援などに従事しています。

環境・気候リスクへのヘッジが必要

 まず、日本の農業を取り巻く世界環境の変化についてみてみましょう。

 日本は米国、中国という農業大国の政策・規制に左右されやすい体質です。このため、それに振り回されにくい輸入体制を構築するのと並行して、新たな生産体制の確立が重要になっています。

 また、世界的な人口の増加と所得層の変化によって食料需要が増える一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が資材調達から1次・2次加工に至るまでのバリューチェーンに大きな影響を及ぼしており、環境・気候リスクに対する、より一層のマネジメントが必要になってきます。

世界的な食習慣の変化に先手を

 社会的観点からみると、グローバルな食習慣の変化や社会課題などに先手を打っておくことが重要です。例えば欧米だと健康志向の高まりから牛肉離れが進み、大豆加工食品という新しい形のタンパク質に対する需要が急増しています。一方、中国では中間所得層の増加に伴い肉の消費量が伸びています。こうした動きを踏まえ約300の大手企業、非営利団体、研究機関が植物性代替肉の開発、スタートアップへの投資、販売を行っています。

農業テクノロジーが続々と登場

 技術面では従来の農法や農作業を抜本的に変えるような農業テクノロジーが続々と登場しています。例えば米国農家による次世代技術の導入状況をみると、GPS(全地球測位システム)による自動操縦の比率は2015年が52%でしたが2018年は64%、資材の投入を管理・調整する可変作業技術(VRT)を活用し肥料散布する割合は32%から48%へと拡大しています。もっとも費用対効果に課題が残るので、生産者から技術の信頼を得ていくことが必要な局面にあります。

 次に国際的な市場規模とスタートアップへの投資実績を見てみましょう。

AgTechへの投資が活発

 2020年から25年にかけてグローバルのスマート農業市場は、年間の平均成長率が9.8%になる見通しで、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせたAgTech(アグテック)への投資も引き続き活発に推移しそうです。その中でも人気が高まっているのは次世代精密農業、ロボティクス、バイオです。

 日本としてはこうした動きを踏まえ、従来型にとらわれない新しい農業のデファクトスタンダードを構築していくことが重要です。具体的には(1)マーケットニーズからの逆算による栽培計画(2)環境負荷低減型のバイオ農業(3)栽培方法のレシピ化(4)産地と消費地の間で最適化された物流網の整備―などです。課題解決に向けた一連の改善策が進んでいけば、アグリ系スタートアップが活躍する場は広がっていくと思います。

収穫ロボットなどの実用化が進む

 今回の特集ではスタートアップを、次世代ファーム、生産プラットフォーム、流通プラットフォーム、農業ロボット、アグリバイオという5つのセクターに分類しました。デジタル技術の開発が進んだことによって、植物工場や陸上での先端養殖、収穫ロボット、ゲノム編集などの実用化が進んでおり、今後10年で多くの技術が本格的に採用されるようになると予測しています。

AIなどの先端技術効率化

 ベンチャーの台頭も加速しています。次世代ファームの分野ではファームシップ(東京都中央区)が電力会社などと組んでLED照明を活用した完全人工光型の植物工場を建設します。生産と流通のプラットフォームではビッグデータやAIなどによる生産プロセスの効率化が進み、オンラインを活用した取引が国内外で拡大しています。農業ロボットの分野ではドローンやロボットトラクターなどの新製品が相次いで誕生しています。アグリバイオは難しい分野ですが、バイオテクノロジーの活用による生産の効率化が進んでいます。

 5つのセクターとサプライチェーンは直結しており、各プロセスの効率化や刷新を通じ、持続可能な農業の新たなエコシステムを構築することが必要となるでしょう。今回は次世代ファームと流通プラットフォーム、農業ロボットの領域から5社を紹介します。

年間通してイチゴを生産

 イチゴを6~11月に収穫するのは難しいですが、1年を通して安定的かつ大量に生産できるシステムを提供しているのが、MD-Farm(新潟県新発田市)です。生産は完全閉鎖型の植物工場で行われ、イチゴの大きさや味、香りに至るまで消費者のし好に合わせることができる点が特徴です。また、種子と環境をコントロールすることにより、クラウドを通じた管理によって同品質のイチゴを生産できるため、海外での事業化も計画しています。

良質な土壌に変え単位収量3倍に

 塩害などで良質な土壌の畑が少なく、栽培が継続的にうまくいかないといった声は少なくありません。そうした課題を解決するためにTOWING(名古屋市南区)が開発したのが高機能ソイル技術です。微生物と有機肥料を適切な条件で管理することによって、良質な土壌を生成でき、市販の培養土に比べ単位収量は3倍になります。複数拠点でプロジェクトの実証準備を行っているほか、宇宙農業システムの開発も進めています。

トマトで農業のデファクトスタンダード

 HAPPY QUALITY(浜松市南区)はブランドトマト「Hapitoma」を展開しています。光センサーによって一粒ずつ糖度や形などを計測した上で選別されたトマトで、抗酸化作用があるリコピンは通常のトマトの2倍以上、糖度は6~10度の中から好みに合わせて選択可能です。栽培方法については、365日・24時間にわたってカメラで定点観測を行い、水やりのタイミングをAIが判断できるシステムの構築に成功しています。

タイでイチゴやメロンを生産

 日本農業(東京都品川区)は、農産物の輸出販売と海外での農業生産に携わっています。国内ではリンゴ農園と組んで収穫量が3倍になるりんご栽培を行い、「ESSENCE」というブランドで東南アジアに輸出。各国に駐在員を配置し直接販売を行うスタイルを踏襲しており、創業4年ながら日本産リンゴでは東南アジアの主要国で、シェアトップを誇っています。また、タイではイチゴやメロンを生産しています。

農薬散布を自動化

 レグミン(東京都中央区)は露地栽培向け自律走行型の作業ロボットを開発しています。多くの農家は手動で農薬を散布しており、繁忙期の作業が追い付いていないことを踏まえ、第1弾のサービスとして農薬を自動的に散布するロボットを計画しています。畝をセンサーで認識しながら自律走行し、曲がっている畝でも安定的に走る点が特徴です。種まきや農薬散布、収穫などさまざまな作業の効率化を目指していきます。

 農業の分野では担い手の減少や高齢化の進行によって労働者不足が深刻な問題となっています。このため政府はスマート農業の普及に力を入れており、AgTechを中心としたアグリ系スタートアップのさらなる台頭が期待されます。

早稲田大学教育学部英語英文学科卒。2014年株式会社光通信に入社し、営業・財務を経験後、ベンチャー企業との商品企画・開発やベンチャーファイナンスを実施。その後、グループ内の子会社取締役に就任し、海外ベンチャー企業との協業や新規事業立ち上げに従事。2019年7月デロイトトーマツベンチャーサポートに入社し、大企業の新規事業創出支援に携わる一方、アグリベンチャーのハンズオン支援にも関わる。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら