デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はスタートアップの初期のステージに相当する「シード・アーリー」です。テーマ概観を説明するのは、NextCore事業部新規事業ユニットの會田幸男です。DTVSのスタートアップ支援にかかわる新規事業の責任者を務めています。
成長に応じ4つのステージ
スタートアップは成長に応じて4つのステージに分かれています。最初のステージがシードです。コンセプトや事業モデルは決まっているものの、具体的なサービスを提供できていない段階ながら、エンジニアを雇ったりするなど事業アイデアを具現化するための資金を必要とします。
起業直後がアーリーで、会社の生き残りをかけてさまざまな施策を展開する必要があります。投資家に対していかに事業計画の可能性が高いか訴求できるかがポイントとなります。
事業が軌道に乗り始め、本格的に進めていく時期がミドルです。売り上げの拡大に伴い追加の設備投資や人材確保を行うためにも、必要とする資金が急速に増えていきます。最後のステージがレイターで、経営が安定する時期です。累計損失も一掃できている状態で、新規上場(IPO)も視野に入ってきます。
最大の難所が「死の谷」
ただ、スタートアップがレイターにたどり着くには、さまざまなハードルが待ち構えています。最大の難所がアーリー期の後に多くの会社が直面する「死の谷」。利益を計上するまでの資金ギャップが生じる期間のことを指しますが、乗り越えられずに廃業に至るケースも少なくありません。スタートアップが死の谷を乗り越えて数々のイノベーションを起こす環境を整備するには、シード・アーリーの段階で投資家や大企業との接点を設けることが重要だと考えています。
投資家との情報共有の場
こうした考えに基づきDTVSが毎週金曜日に開催しているクローズド型のイベントが「Meetup Session」です。起業家がピッチを行った後、その場で投資家やメディア関係者などからのフィードバックを受けるプログラムで、早い段階からスタートアップと投資家との間で情報を共有できる環境を構築しています。これによって、良質な事業提携や投資案件に結びつく可能性が大きくなります。
Meetup Sessionはこれまで100回開催して400社が参加しています。今回はこの中から5社が登壇いたします。
人気家具を月額定額で利用
人気家具ブランドの商品を月額定額で利用できるシェアリングサービス「air Room」を展開することで、必要な期間だけ必要な家具を利用するという新しい住まいのあり方を提案しているのが、Elaly(東京都中央区)です。家具メーカーと家具をレンタルしたいユーザーとのマッチングの場を提供しており、1万点以上の家具を用意しています。コーディネートの提案も行っており、ユーザーは月額500円から好きな家具を無期限で借りることができます。気に入った家具があれば購入することも可能です。過剰在庫問題を抱えているのは家具業界にとどまりませんので、中長期的には雑貨や家電などの領域にも広げる考えです。
1分単位からジムに通える
1分単位からジムに通えるアプリを提供しているのがナップワン(東京都港区)です。ジムに興味を抱きながら「月額費用が高い」といった理由で通えていない層の来店を促していきます。ユーザーはアプリによって登録されているジムを検索し店舗に行き、受付端末でQRコードを読み取ってチェックインすれば予約なしでジムを利用できます。料金は1分単位で加算。チェックアウトもQRコード対応で、登録されているクレジットカードによって自動決済される仕組みです。本人確認は登録時の1回で、1人でも、カップルや友人とでも来店できます。コワーキングスペースや習い事など他ジャンルへの展開も視野に入れています。
5秒で家具・家電付き物件を探せる
初期費用0円で家具や家電が備え付けられた賃貸物件や、マンスリーマンションの部屋をマッチングさせるプラットフォームを展開しているのがNOW ROOM(東京都渋谷区)です。アプリを活用することによって、ユーザーはホテルを予約するように短期賃貸物件を借りることができます。一方、物件オーナーや不動産管理会社は、賃貸の空室物件やホテルの部屋などを短期賃貸としてNOW ROOMに貸し出すことができます。出張など短期的に利用したい潜在層は多く、2万1000人のユーザーが利用しています。今後は民泊やゲストハウス、シェアハウスなどにも領域を拡大し、首都圏から地方都市、全国へと事業エリアも広げていきます。
天然木のデジタルパネル
テクノロジーが人や自然と調和する未来を目指す「Calm Technology&Design(穏やかなテクノロジーのデザイン)」をコンセプトに、天然木版を活用したデジタルパネル「mui(ムイ)」を提供しているのがmui Lab(ムイラボ、京都市中京区)です。スマートホームの情報端末がひとつにまとめられており、室内の柱や壁の中に溶け込むようなデザインが特徴です。世界中から最先端のハイテク機器が集結する見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でイノベーション賞を受賞するなど、技術面で高い評価を受けています。店舗に設置すればだれがどのような形でアクセスしたのかといった情報を、効率的に分析できる点もパネルの特徴です。
企業サービスをイラストで紹介
SNSクリエイターのマネジメントやキャスティングを行っているのがwwwap(東京都渋谷区)です。YouTuberが在籍する代理店のようなイメージの会社で、漫画家やイラストレーターなど200人ほどが在籍しています。SNSで魅力的な作品を発信しながらも生活に苦労しているクリエイターは少なくありません。その姿を同社の代表が漫画編集者であった時代に間近で見てきたため、課題意識を抱いて会社を立ち上げました。企業と提携しSNS上で商品やサービスを紹介して発信するインフルエンサーマーケティング事業と、クリエイターによるキャラクターの開発力と発信力を活用したライセンス事業を展開。創業5年で1000社以上の企業との取引実績を誇っています。
非上場で企業価値が10億ドル以上あるユニコーン企業は世界に約500社あると言われていますが、大半が米国や中国系で日本発はわずか数社しかありません。日本が新たな成長戦略を歩むには、ユニコーンに象徴される新しい企業・産業を輩出していく必要があります。そのためにもシード・アーリー期のベンチャーの経営をいかにサポートできるかは、重要な課題です。
【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら