デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「デジタルヘルス」で、テーマ概観を説明するのはNext Core事業部の外山陽介です。six brainというスタートアップ企業が大手企業の最適な担当者に最短で出会えるオープンイノベーションプラットフォームの開発にも取り組んでいます。
調達件数・額は右肩上がり
まずデジタルヘルスベンチャーのファイナンス動向について紹介します。調達額・調達件数ともに増えており、当社の調べによると2020年は2018年に比べ、それぞれ倍増する見通しです。2020年に大型調達に成功したのはAI問診のUbie(ユビ―、20億円)や病院画像の診断支援を行うメドメイン(11億円)などです。
タイムマシン経営を実現
ヘルスケア業界は元々、IT化が遅れていましたが、海外で成功したビジネスモデルをいち早く日本で展開し、先行者利益を得る「タイムマシン経営」に業種を超えて取り組みやすい点が特徴です。今回はヘルスケアベンチャーに、どういった地殻変動が起きるのかについて検証します。
COVID-19によって固定費は膨れ上がっており、その見直しとしてSaaSをベースとしながらも、それを進化させた新しいビジネスモデルが生まれてきています。そのひとつが、リアルな場の提供や顧客業務の外注を受けながら、その中身をデジタル化する垂直統合型のモデルです。注目される理由のひとつが、顧客業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に最も直接的なアプローチ手法だからです。飲食やホテル業界に続き、医療分野でも顕在化することでしょう。
SIBの成功事例も
成果報酬型のビジネスモデルを導入する動きも活発化するとみられます。我が国の医療サービスは出来高払いになっていますが、医療費が下がった分だけ事業者に対価を支払うソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)が試験的に導入されています。キャンサースキャンと東京都八王子市が、大腸がん検診受診率の向上という目標を達成するなど、成果事例も出てきており、今後参入するケースが増えるだろうと予測しています。
禁煙治療用アプリが保険適用
治療アプリの領域では、CureAppが開発した禁煙治療用アプリが保険適用を認められました。消費者がIoT製品を利用するとデータが蓄積されて最適なサービスを受けられるようになりますが、患者が治療アプリを利用すると、同様の効果が得られるようになります。このため国外では治療用アプリ系ベンチャーと製薬会社の提携が相次いでいます。
異業種連携も活発
異業種連携も進んでいます。そのひとつは事業会社が持つ強みを生かして撒き餌を作るパターンです。大手インターネット会社は、ゲーミフィケーションにかかわる知見を、患者コミュニティサービスの運営に活用しています。もうひとつが強力な回収エンジンを備えたプレーヤーが参入するケースで、中国では大手保険会社がオンライン診療サービスを運営。ユーザーは病院の診療を待ち時間なしで予約することができ、処方箋も即時発行されます。
難しい予防分野の事業化
逆に新規参入に失敗した事例も紹介しましょう。よくあるケースが、全消費者をターゲットにした事業を企画してしまう点です。予防分野は実質的に国の医療サービスと競合してしまうため、ビジネス化は難しいでしょう。また、単発で終わってしまったりデータを集めた上でのビジョンが十分でなかったり、といった事例も散見されます。
ヘルスケアビジネスはそれぞれの領域単体で事業化することが難しく、患者や医師の行動変容を収益ポイントとして事業を設計することが主流です。今回は医療に介護、IoT、AI・ブロックチェーン、新興国、チェックインという5つの領域からベンチャーを紹介します。
AI聴診器で心臓負担をデータ化
心疾患診断のアシスト機能が付いた遠隔医療対応型の聴診器を開発しているのがAMI(熊本県水俣市)です。心電と心音を同時計測するとともに独自のアルゴリズム、データ処理によって一般的な聴診だけでは分からない心臓負担をデータとして可視化。心臓弁膜症の早期発見を実現します。同社の代表者は循環器内科医として働いており、3Dプリンターで試作を進めています。将来的には肺や腸の音に領域を広げる方針です。
スマホを介した医療相談
ドクターメイト(東京都港区)は、介護施設向け医療相談サービスを提供しています。写真や動画を活用したスマートフォンによる相談が可能で、皮膚科への通院数は70%減少し、精神科への通院数は半減という効果が表れています。また、夜間相談にも対応できる体制を整えています。今後は訪問看護・介護サービス向けにも展開し、将来的には家族による在宅介護でも利用できるようにする計画です。
病院内をスマート化
日本の病院は、記帳をすれば誰でも出入りできるなどアナログで運営されています。この部分に注目して院内のスマート化を仕掛けているのが、ホスピタルコンプライアンスマネージメントジャパン(東京都千代田区)です。外部業者の訪問を管理する専用システム「MONITARO」では、院内での動きを一元で管理。COVID-19対策のための接触アプリとしても活用でき、今後は医師の働き方改革を促す使い方を進めます。
多言語電子カルテでDX化
アジア圏でスマートクリニックチェーンを展開するのがMEDRiNG(東京都文京区)で、まずベトナムで総合内科と小児科を開設します。予約や事前問診から治療、決済に至るまでの全工程を、自社開発の多言語クラウド型電子カルテを核にDX化を進めていきます。登録された問診データに基づき、医師の力量にかかわらず一定水準の診療が可能となるAIも開発中で、日本で製造された医薬品の現地展開も目指しています。
治療アプリのリーダー
治療アプリはデジタルテクノロジーが治療を支援するため、医療費の抑制につながるだけではなく医薬品の有効性分析など、データビジネスの展開に期待が集まります。日本でのリーディングカンパニーとして期待されているのがサスメド(東京都中央区)です。アプリの開発には医療・薬事の知見、システムの開発体制、データの分析技術などが必要で、これらすべてに1社で対応できる点がサスメドの強みです。
2022年には団塊の世代が75歳になり始め医療費の急増が見込まれるため、より効率的な医療提供が求められています。デジタルヘルス系ベンチャーのさらなる台頭への期待が高まります。
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