Fromモーニングピッチ

コロナ禍で威力を発揮 デジタルマーケティングで顧客接点を緊密にする

成田優人

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「デジタルマーケティング」で、テーマ概観を説明するのはイノベーションソリューション事業部の成田優人です。外部スタートアップとの協業を通したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やデジタルマーケティング施策の全般を担当しています。

 時系列で顧客の行動履歴を分析

 マーケティングの基本プロセスは調査、ポジションの把握、マーケティングミックス、実践、管理という5段階に分かれています。デジタルマーケティングではオンラインやデジタルを活用することで、これらを効率的に進めていきます。

 デジタルマーケティングでは3つの特性を意識することで、より効果的な施策を実現できます。そのひとつが収集データの分析結果を基に意思決定するデータドリブンです。時系列で顧客の行動履歴を分析するため、ビッグデータを活用できます。もうひとつが双方向性で、ユーザーからのフィードバックを受けて1対1のマーケティングを実現できます。3つ目が即時性です。リアルタイムな情報配信を行えるようになり、ツイッターなどを活用した情報の拡散による波及効果が見込まれるようになりました。

 国内市場の平均成長率は約5%

 デジタルマーケティング関連サービスの国内市場規模は着実に伸びています。IDC Japanの調査によりますと2019年は約4200億円でしたが、2024年には約5300億円になる見通しです。年間の平均成長率は4.8%となります。COVID-19の環境下ではこの伸びがさらに勢いを増すとも言われています。

 資金調達の動きも活発です。米国のマーケティングスタートアップで小規模事業のEC(電子商取引)支援を行うFivestarsは55億円を調達しましたし、デジタルマーケティングスタートアップのAViCは3億3000万円を調達しました。

 深刻な人材不足

 デジタルマーケティングの課題は人材不足です。ITRの調査によると「会社全体のマーケティングを総合的に見る人が社内にいない」「マーケティング施策を評価・分析する人がいない」「デジタルマーケティング関連の技術・ツールに詳しい人が社内にいない」といった意見が上位を占めています。

 今回の特集では自動化とハンズオン・インハウス支援、eコマースのプラットフォームというとくに需要が拡大している3つの領域から5社を紹介します。

 単独の事業化を支援

 デジタルマーケティングに詳しい人材が圧倒的に不足しているのを踏まえ、多くの事業会社がデジタル広告領域の業務を代理店に依存しています。仲介手数料の削減やノウハウの蓄積などを目的として自社内での事業化を支援するのが、セルミュラー(東京都目黒区)のソリューション「MeLiCo」です。事業化に必要な情報を集約したプラットフォームで、3つのサービスによって構成されています。ベトナムや台湾、中国など海外市場への参入も目指しています。

 サブスクの解約率を改善

 国内のサブスクリプション市場は拡大しており、これからは顧客の契約率向上が課題となってきます。それには利用データを扱いながらユーザーとのコミュニケーションを図り、機能を改善する必要がありますが、データを取り扱う部分に人材不足などの課題がありました。KiZUKAI(東京都中野区)はサブスクリプション事業者向けの解約率改善サービスを提供しており、顧客データの自動収集やAIを活用した自動分析などを行います。導入後、解約率が5%も下がった事例があります。

 オンライン会議の気まずさを解消

 COVID-19によって、テレビ会議をはじめとしたオンラインサービスを活用する事例が急増しています。一方で、「一人ひとりの表情や反応がわかりづらい」といった課題があります。I’mbesideyou(東京都世田谷区)が提供するのはAIが表情や顔の向き、視線、音声、脈拍といった情報を読み取り、一人ひとりの集中度や感情を総合的に判断し解析結果をレポートで伝えるサービスです。現在は主に教育業界への導入が進んでおり、個別指導塾やオンライン家庭教師の授業分析に活用されています。今後は領域を順次拡大していきます。

 海外向けECサイトの構築支援

 自社のECサイトで世界中の消費者に品物を届けるに当たっては、さまざまな工程を経る必要があるため、多額な投資を必要とします。こうした現状を踏まえ、世界市場に対応した自社サイトの構築から配送に至るすべての流れを提供しているのがLingble(米国)です。成果報酬型を採用しており、開発費やサイトの構築にかかわる費用、固定費は基本的に無料です。14カ国語・100以上の決済サービスに対応し、現地スタッフはCOVID-19の前からフルリモート体制で対応しています。

 最適化に向けた研究開発を実施

 商品やサービスのデータを分析して改善し、マーケティングの課題を解決する手法をグロースハックといいます。PROJECT GROUP(東京都千代田区)はハンズオン型のグロースハックサービスを提供しており、成果報酬型サービス「Dr.CMO」を展開。データマーケティングの基盤構築から改善施策の立案、効果測定に至るまでを徹底的に行い、マーケティングを最適化するための研究開発を行います。

 市場の拡大に人材が追い付いていけない状況は今後も続くとみられ、デジタルサービス系ベンチャーの新サービスに期待が高まります。

商業系シンクタンクにてストアプランニングを担当し、その後ASEAN法人立ち上げに参画、新規事業としてスマートフォンを用いた広告プラットフォームの構築に携わる。広告代理店にてWEBマーケティング施策を中心にユーザーの拡大、LTV施策等を担当。オンライン、オフライン双方のマーケティング施策に精通し、現在はベンチャー企業と大企業・官公庁の協業を通したDX推進やデジタルマーケティング施策全般に従事。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら