デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はMedical(医療)とTechnology(技術)を組み合わせた「MedTech(メドテック)」で、テーマ概観を説明するのはイノベーションプロデュース事業部の柏修平です。MedTechを含む技術系ベンチャーの創出・成長を核に、官公庁や大企業を巻き込んだイノベーションの創出を支援しています。
診断系と介入系に分類
MedTechはHealthTechとMedTechの双方から相互乗り入れしているような状況で、明確に定義するのは難しいと言えます。技術系の大手デジタルメディアによると、健康機器のひとつである歩数計や体重計は、機能の追加によって医療機器化しており、医療機器系の血圧計は健康機器としての価値が出てきています。このため今回は、健康増進、予防から診断、治療、リハビリ、予後モニタリングに至るヘルスケア、メディカルケアのステップのうち、医療従事者が関与する領域のテクノロジーをMedTechと定義します。
MedTechは診断系と介入系に分けられ、どちらの系統も精度や利便性、体への負担が少ない低侵襲化、低コスト化といったように技術が多面的に進化しています。その理由として(1)応用範囲が広いベース技術の進化やアカデミア発ベンチャーの増加(2)医療分野特有のニーズ、規制突破策、商習慣などを熟知した医師兼起業家の増加(3)オンライン診療やオンライン服薬指導の規制緩和-という3つの背景が考えられます。
相次ぐ株式上場
例えばエルピクセルは日本初の深層学習を活用した脳MRI分野のプログラム医療機器で薬事承認を取得したほか、HIROTSUバイオサイエンスは1滴の尿で手軽にできるがんの1次スクリーニング検査を実用化しました。CureAppはニコチン依存症の治療用アプリで薬事承認を取得しています。また、株式上場も相次いでおり、MedTech系ベンチャーはますます進化を遂げそうな勢いです。
世界のMedTech市場に目を向けると、医療機器分野だけでも1年あたりの平均成長率が5.6%と順調に成長しています。2017年は約43兆円の市場規模でしたが、2024年には約63兆円へと拡大する見通しで、有望市場だと言えます。
投資も活発、大企業との連携も進む
日本では2020年上半期の資金調達額上位20社のベンチャーのうち、MedTech分野だけで5社を占めるほど、この分野への投資が活発です。5社の事業内容は(1)iPS細胞由来の血小板製剤の実用化(2)創薬テクノロジーを駆使したネットワーク型研究(3)紙の問診票をデジタル化し、AIで業務効率化-などです。
大企業との連携も進む
また、主にデータ関連で、大企業とMedTechベンチャーのソリューション、アセットを掛け合わせた新たな試みが盛んです。具体的には従来と比較して迅速な簡易解析を可能にするサービスや、MRI検査などで得られた3Dデータを医療従事者が立体空間で確認し、直感的に理解できるようなシステムが誕生しています。
今回はMedTechの本丸と言える、医師が関与する分野に焦点を当て、5社のベンチャーを紹介します。
持ち運びが可能な点滴
点滴の投与が必要な患者は病院に行く必要があり、長時間にわたって拘束されるという課題があります。個々のライフスタイルに応じた治療を実現できるようにという考えから、アットドウス(川崎市幸区)が開発したのは、持ち運べる点滴です。中核技術は電気の流れを水の流れに変える装置で、電流の制御によって投薬量を自在に調整。ポンプに与える電流を少なくすれば、微量で投薬ができます。
重症者治療を遠隔サポート
全国的に専門家が不足する重症患者診療の現場を、集中治療専門医と集中ケア認定看護師で構成されたチームにより、24時間・365日にわたってサポートするのがT-ICU(兵庫県芦屋市)です。病院に端末を設置することで遠隔地から電子カルテやCT画像などの医療情報を確認でき、質の高い支援体制を構築しています。すでに契約病院の数は約30に達し、今後は海外支援にも力を入れていく考えです。
AIで痛みを客観的に評価
脳波を測定し、AIの力で痛みを客観的に評価するシステムを開発したのがPaMeLa(大阪府吹田市)です。自己申告制の場合、個人で痛みにばらつきがあり、投薬量を誤った結果、医療事故や合併症を引き起こす可能性があるからです。システムは脳波計と同社が開発した解析ソフトで構成され、ベッドサイドに痛みレベルをリアルタイムで表示します。大学病院と治験を進めており、有効な測定結果が得られています。
体深部のがん治療が可能に
がんの治療法の一種に、BNCT(ホウ素中性子補足療法)があります。点滴でホウ素薬剤を注入し体外から中性子線を照射することで、がん細胞を破壊する方法です。大型の装置が必要なこともあって、あまり普及していませんが、福島SiC応用技研(福島県楢葉町)は、装置の小型化に成功しました。これによって6方向からの照射が可能になり、体表面から25センチと従来の4~5倍の深度まで対応できるようになりました。
海外日本人向けオンライン診療
Medifellow(東京都港区)は海外在住の日本人に向けて、オンライン診療やメンタルヘルスケアを行っています。医師でもある丹羽崇社長が学会で海外に滞在中、現地に住む日本人から「治療を説明されても理解できないので日本人医師の治療を受けたいが、どうすればよいのか」と相談されたことが起業のきっかけです。全診療科で対応できるサービスを提供しており、中国人向けのオンライン医療ツーリズムサービスも提供しています。
団塊の世代が後期高齢者(75歳)の年齢に達し、医療や介護などの社会保障費の急増が懸念される「2025年問題」をいかに乗り切っていけるかが、医療分野の重点課題になっています。そのためにもMedTechベンチャーの台頭による新サービスの拡充に期待が集まります。
【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら