Fromモーニングピッチ

エンタメもオンラインにシフト 多彩なベンチャーに脚光

永石和恵

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「オンラインエンタメ」で、テーマ概観を説明するのはモーニングピッチの運営統括を担当する永石和恵です。ベンチャー企業で10年間にわたり、主に人事関連のキャリアを積み重ねてきました。現在は主にスタートアップ支援などに携わっています。

COVID-19で市場の8割が消失

 国内のライブ・エンターテインメント業界の動向をみていきたいと思います。COVID-19による打撃は大きく、ぴあ総研では来年1月までに市場のうち約6900億円が消失すると試算しています。これは年間規模の77%に相当する額です。こうした中、リモートエンタメという新しい文化が芽生えてきました。今回の特集ではオンラインエンタメの領域をオンラインだけのコンテンツだけでなく、オフラインのオンライン化、リモート対応も含めています。

 米国の広告費は2017年、インターネットがテレビを上回りましたが、日本も19年、同様の事象が起きました。インターネットユーザーが各種メディアを利用している平均時間をみますと、若年層はとくにSNS、音楽ストリーミング、ゲーム、オンライン動画サービスに費やしています。

新様式、デジタルライブ

 ユーザーの新しいエンタメ様式として注目されているのがデジタルライブエンターテインメントで、市場の急拡大が見込まれています。2020年は140億円の見通しですが、24年には約1000億円に拡大すると予測する調査もあります。今年6月にはサザンオールスターズのライブ配信がありましたが、有料チケットで18万人のアクセスがあり、単純計算すると1回で6億5000万円を売り上げたことになります。リアルな場で換算すると東京ドーム公演の場合、満席にした状態で3~4回の公演を行わないと、この額を稼げない規模です。それを考えるとライブ配信の収益性は、非常に高いことが分かります。

テクノロジーの進化などがカギ

 こうした次世代型エンタメへとシフトするための不可欠な要素は、テクノロジーの進化とユーザーの行動変容、ビジネスモデルの転換という3点がうまく回っていくことだと考えています。テクノロジーでは通信やデバイスの進化とデータセキュリティという総合的なインフラの強化が必要となってくるでしょう。行動変容はネット上のリテラシーや心理的ハードルの軽減、価値観の変化などが挙げられます。ビジネスモデルの転換では省人化・低コスト化やコンテンツ権利、サプライヤーとの連携が重要になってきています。

 ここでオンラインエンタメの事例を紹介します。

新たなマネタイズ法をサポート

 東京都渋谷区が主幹事として推進しているのが渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトです。COVID-19の影響でイベント自粛が相次ぐ中、全国のライブイベントを支援するのが目的で、大手通信会社やメディア、放送会社などの知見や資産を集結させて、ライブ映像の撮影や配信、オンラインライブを軸にした新たなマネタイズ方法のサポートを行っています。

 全世界で3億5000万人の登録者がいるオンライン対戦ゲーム「フォートナイト」という空間では、世界の著名なアーティストがライブを開催しています。アーティストの米津玄師さんは日本人として初めて、バーチャルライブを実施し、世界でも知名度が一気に高まりました。

配信者向けファッションショー

 また、4500万人ものユーザーを抱える日本最大のライブ配信アプリの提供を行う17(イチナナ)LIVEは、実用性の高い服をメーンとしたファッションショーを開催している神戸コレクションと連携しました。今年の神戸コレクションはオンラインとリアルを融合。17LIVEのライバー(配信者)の中からショーに出演できるオーディションを共同企画しました。

 オンラインエンタメはエンターテインメントにオンライン・デジタル・リモートを掛け合わせたもので、「音楽や映画、アニメなどのコンテンツ」「動画、ライブ、音声配信」「コミュニケーション」「イベント、レジャー」「ゲーム、スポーツ」などの領域で構成されています。今回はこの中から5社のベンチャーを紹介します。

バーチャルマーケットを運営

 HIKKY(東京都渋谷区)はバーチャル空間上で、出展者と来場者がアバターなどの3Dアイテムや、洋服やパソコンなどリアルな商品を売り買いできる「バーチャルマーケット」を運営しています。VR(仮想現実)空間を実際の会場のように回遊し、長時間にわたって滞在できるのが特徴です。入場者数は100万人を超えており世界最多。海外在住者の間でも人気が高く、これまでに多くの大手企業が出展しています。

動画配信数は7000本

 BitStar(東京都渋谷区)は、YouTuberを中心としたクリエイタープロダクション、コンテンツスタジオ、インフルエンサーマーケティングという3領域で事業を展開しています。プロダクションには美容やエンタメ、お笑いやゲーム実況といった多種多様なジャンルの80名のクリエイターが所属しており、動画配信数は7000本を超えています。目指すのは、新しいコンテンツを担うベンチャーの創出です。

趣味を通した出会いをつくる

 「隣に仲間をつくる」を目標に掲げ、好きを分かち合うエンタメシェアリングサービス「Cinemally」を展開しているのがStandbyme(東京都渋谷区)です。マッチングアプリの多くが恋愛を前提としていますが、同性の友達との出会いや恋愛ではなく趣味や嗜好を通した出会いの場はなかなかありません。Cinemallyは観に行きたい映画や好きなアーティストのライブ、気になる展覧会などの同行者を見つけることができます。

オンラインでも体験型イベント

 リアル脱出ゲームをはじめとする体験型イベントの企画、運営を手掛けているのがSCRAP(東京都渋谷区)です。会場に集まった参加者が協力しながらさまざまなヒントを基に謎を解いて、その場所から脱出するのがゲームの醍醐味ですが、COVID-19を踏まえ自宅でも楽しめるリモートコンテンツや、オンラインで物語に参加できる演劇の提供など、新しい体験の導入にも力を入れています。

誰でもライブ番組を配信

 誰でもライブ番組を配信できるサービスを展開するのが、17LIVE(東京都港区)です。配信者は若者から高齢者、地方のゆるキャラやバーチャルキャラクターに至るまでさまざま。70代で初めて配信を開始し、テレビ出演も果たしているユーザーもいます。企業とのタイアップ事業にも力を入れており、花王と行ったイメージモデルの投票イベントでは、約70万個のギフトが使用されるなど、大きな反響を呼びました。

 COVID-19が収束したとしても、これまでのように多くの人が1カ所に集まるイベントを開催できるかどうかは不透明です。オンラインエンタメベンチャーの活躍の場は広がりそうです。

学生時代からITベンチャー企業へ参画、その後大手ネット広告代理店と2社で計10年の人事キャリア。1社目のベンチャーでは、上場前メンバーとして人事採用チームの立ち上げを経験、上場後にHR領域マネジメントと経営企画IR業務を担当。2016年より現職で、スタートアップ個別支援や、イノベーションエコシステム構築に従事。ベンチャーと大企業の協業マッチングプラットフォームMorning Pitchの運営統括。EdTech、リモートサービス、オンラインエンタメ等のテーマ領域を担当。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら