デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は保育特集で、テーマ概観を説明するのはNextcore事業部長の成田大輔です。妻が元保育士で3児の父でもあります。子供向け事業を立ち上げた経験もあり人一倍、保育に対する思い入れが強く、今回のテーマに関わることになりました。
ベビーテックが台頭
日本の出生数は年々低下しており、2019年は86万5000人と過去最低になりました。一方、ベビー用品や関連サービス市場は年々拡大しており、矢野経済研究所の調査によると2018年の段階で4兆円を突破しています。
さらにそれを後押しするように、2019年10月から幼児教育・保育の無償化が始まり共働き世帯の負担が軽減されました。また、保育園・託児所市場の拡大によって「ベビーテック」と呼ばれる分野が2016年頃から台頭し、IT技術を活用した子育て支援サービスや製品が多数生まれています。COVID-19を契機に保育の現場でもオンラインを通じ、保育士と園児がネットで交流するなどデジタル化の取り組みが広がっています。
ベビーテックの成長が著しいのは米国です。ベンチャー資金調達額は1年で200倍に成長するなど、とても注目されています。
業務の効率化支援が重要
保育特集の主な登場人物は親・子供、保育士、保育園という三者です。それぞれ「共働きの増加による子育てマンパワーの不足、核家族による子育てノウハウの不足」「劣悪な就業環境、アナログ業務が中心、保育士不足」「非効率な経営」といった課題を抱えています。こうした課題を克服するには保育情報の充実や新たな就業形態、業務の効率化支援といった施策が必要となります。
おむつの交換時期を可視化
このうち親・子供の領域については、働きながら子育てを行うための環境整備が急務だとして、テクノロジーによるソリューションが増えています。そのひとつがベビーテックで、働きながら子育てをするストレスを軽減するサービスが続々と登場しています。例えば業界大手である米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は今年1月に開催された世界最大のデジタル技術見本市「CES」に、センサーを装着した紙おむつなどで構成されるシステムを出展しました。おむつの交換時期を可視化するだけでなく、睡眠の周期なども追跡できる点が特長です。
こうしたテクノロジーの家庭への浸透によって育児がスマート化され、親の負担の軽減や管理品質の向上が期待されます。日本からもさまざまなベビーテックの会社が誕生しています。
スマート哺乳瓶で業務負荷を低減
保育士の課題は仕事量が多い点です。日本保育協会の調査によると保育士の4人に3人が仕事を辞めようと思ったことがあり、辞めたい理由については「給料が安い」に次いで「仕事量の多さ」が挙げられています。
実は子供と遊ぶだけではなく、指導計画や保育日誌など、数多くの書類作成業務が毎日発生しています。ところが日中は子供から目を離すことはできず、事務の時間を確保できないため、仕事を家に持ち帰るということが常態化しています。
こうした課題の解決を図るため保育士の業務負荷軽減をテクノロジーで促す動きが見られます。スマート哺乳瓶もそのひとつです。搭載したIoTデバイスによって、いつ、どの程度のミルクを飲んだかを把握でき、そのデータを保護者と共有することで保育士の業務を軽減できます。
ICT化が進む保育園
保育園はICT(情報通信技術)化が進んでいます。シードプランニングの調査によると、2018年度の市場規模は186億円でしたが、行政からの補助金や新規サービスの開発などによって、2025年度には382億円に達するとみられています。けん引役を担うのがスマート保育園です。日本のスタートアップであるユニファ(東京都千代田区)は、保育士事務の自動化や園児の見守りサービスを提供しています。19年時点の累計調達額は60億円に上る注目のスタートアップです。
保育領域の協業事例も出ています。東京23区内の保育園を便利に探すことができる「ママスタ保活」は、LIFULLが運営する不動産・情報サイトと情報連携し、物件情報を掲載しています。また、コドモンがベネッセグループやグローバルキッズ、ベビージョブなどと連携しながら、オンライン保育などの実証実験に取り組んでいます。この過程で有用性が明らかになったプロジェクトについては、事業化の検討を進めていきます。
このように今回は親・子供、保育園という領域から5社のベンチャーを紹介します。
子育て環境をタワマンと整備
ここるく(東京都渋谷区)は、子育てによって外食やリフレッシュが困難な親のために、人気レストランなどと提携して託児プランを提供してきました。COVID-19を契機に在宅勤務が増えるなど、事業環境が変わってきたので、新たな保育を目指しています。その一環として、取り組むのがタワーマンションと協業して展開する再開発エリアの環境づくり。購入の前段階から子育てしやすい環境を思い描いてもらいます。
育休中の女性のデジタルスキル磨く
第一子出産後の女性の離職率は5割に上ります。また、復職を果たしても子育てと仕事の両立は難しいのが現状です。一方、企業ではデジタルスキルを備えた人材が不足しています。このため産休・育休中の女性の心身を支援するとともに、デジタルスキルのオンライン研修を提供するのがShare Table(東京都大田区)です。円滑なコミュニケーションを後押しするので、一方向だけではない講座を実現しています。
主体性を科学的に育む
Edulead(東京都港区)は、日本の高校を中退しニュージーランドで主体性を育む教育に触れた代表によって、19歳の時に設立されました。現在は全国9カ所で地域の特性に応じた保育園を運営しています。ソフトとデータサイエンスによってデータ起点の保育に取り組んでおり、今後はデータとAIモデルによって主体性を科学的に育むサービスを予定しています。世界でひとつだけの保育園づくりを目指します。
デジタル社会での活躍を後押し
サンクスラボ(沖縄県那覇市)は障がい者がデジタル社会で活躍できるように、デジタル系業務を担える人材育成を、就労支援のひとつとして行っています。育成と同時にネットサービス事業なども展開しており、約700人の障がい者を支援しています。また、児童にもデジタルスキルを提供する学びの場として、学童スクールの運営も開始。デジタル社会での就労につながると、地域から評価を得ています。
園児情報を一元化
コドモン(東京都港区)は保育園や幼稚園で働く先生向けのSaaS型業務支援システムを展開しています。一元化された園児情報を踏まえ成長記録や指導案などを記録する機能をはじめ、登降園の管理やアプリを活用した保護者との連絡など、複数の機能が連動して動作します。これによって紙の配布が無くなり業務負担を大きく減らし、働き方改革をサポートします。すでに全国で10万人の職員が利用しています。
政府は子育て支援を重点課題に掲げており、保育関連ベンチャーの活躍の場は広がるはずです。
【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら