デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「働き方改革」で、テーマ概観を説明するのは篠原佑太郎です。主に人事や管理といった領域と東海エリアでのベンチャー支援に携わっています。
リモートワークへの投資が増加
働き方改革では労働時間の是正、正規・非正規間の格差解消、多様で柔軟な働き方の実現という3本柱が掲げられています。今回は多様で柔軟な働き方の実現の中でCOVID-19によって注目度が高まっている「リモートワーク」に焦点を当てて最新の動きを紹介します。
当社ではモーニングピッチの会員を対象に「COVID-19によって、今後どのような領域で投資が増加するのか」といった調査を行いました。それによると、リモートワーク関連がトップとなりました。
人材サービス系シンクタンク調査でも、4月の緊急事態宣言後にリモートワークを導入する企業が一気に増えたことが分かりましたが、宣言の解除後は「なじめない」などを理由に、元に戻る動きが一部で顕在化しています。
完全在宅は4割以下
米国の経済研究所によると、そもそもすべての業種、仕事がテレワークに対応できるわけではありません。完全に在宅で行える仕事は全体の37%に過ぎないと言われています。在宅就労が可能な教育サービス、科学・技術サービス、企業経営管理、金融・保険、情報通信という上位5業種は積極的にリモートワークを活用すると思われます。その反面、運輸・倉庫や建設、小売り、農林水産、宿泊・飲食サービスといったリアルな場が重視される業種にとっては、人工知能(AI)やIoT、ロボットを活用した効率化・省人化が重要になってくるでしょう。
インフラ未整備で改革進まず
読者の中でもリモートワークに実際に取り組んでみて課題に直面している人がたくさん存在すると思いますが、その課題はコミュニケーション、業務支援、人材育成・人事評価、管理・事務手続き、環境・インフラ、企業文化・ルールという6つに分類されるのではないかと思っています。とくに多くの企業は環境・インフラ、企業文化・ルールに課題を抱えており、(1)ITのインフラの部分が不十分(2)子供がいてなかなか集中できない(3)対面を前提とする企業文化ができあがっている(4)就業時間や出社場所の規制がある-といった理由で、改革が進められていないのではないでしょうか。
リモートワークを推進するに当たってはチャットツールやビデオ会議、SaaSなどさまざまなソリューションが登場し、それにかかわるスタートアップも続々と誕生していますが、通信やセキュリティ、IoTといった領域では事業会社自らの社内改革や大手のサービスが主流になっています。これらのことからリモートワークを推進するには、事業会社とサービスを提供する大手企業、スタートアップが連携して取り組む必要がありそうです。
ハイブリッドワークが主流に
リモートワークにおける3つのトレンドを紹介します。まずはリモートワークとオフィス出社などを組み合わせたハイブリッドワークモデルです。今後の方向性としては本社への出社に限らず自宅、サテライトオフィス、コワーキングスペース、バーチャルオフィスというさまざまなスペースを活用する動きが加速し、。他社とのコラボレーションの創出や地方自治体との連携など、周辺領域で新たなビジネスチャンスが生まれると考えています。
バーチャルオフィスは米国のベンチャーの動きが活発で、SpatialSystemsはKDDIと提携しAR(拡張現実)会議システムの開発を進めています。また、オフィスの設備から従業員の体験に至るまでを統合的に管理するようなソフトが台頭してくると思われます。こうした技術の普及によって、ワークスペースでの人、場所、行動にかかわる情報を起点に、さまざまなビジネス展開が予想されます。
管理、雇用の在り方に変化
2つ目はリモートワークコミュニケーションです。リモートワークの比率が高まることにより、課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。ここで重要になってくるのは従業員のコンディションをリアルタイムで見える化し、オンラインで施策実行することです。例えばSlackでのやり取りを自動的に解析し働くチームの改善点を可視化したり、現場マネジャーがオンラインでナレッジを共有したり1対1の面談をサポートするようなソフトも開発されています。
3つめのトレンドがエリアを問わない人材活用です。例えば国内外で700人程度のリモート社員を抱えるキャスターは、宮崎県西都市に本社を移しました。場所にとらわれない働き方として、アバターを活用した労働領域に注目が集まることが想定されます。
今回はリモート関連を中心に5社のベンチャーを紹介します。
ひとりで複数店舗に対応
Webを活用することによって、ひとりで複数の店舗に対応できる遠隔接客サービス「RURA(ルーラ)」を展開しているのがタイムリープ(東京都千代田区)です。パソコンモニターには各店舗の映像を表示し、店内センサーで来店者を感知しモニターに通知、接客したい店舗を選択し音声と映像で対応する仕組みで、深刻化する人手不足の問題を改善します。ルーラ内で遠隔決済が可能になる機能も導入する予定です。
業務に最適な人をAIが選択
KBE(東京都渋谷区)は人事データの構築や活用を支援する「researchHR(リサーチャー)」という事業を展開しています。現場が活用しやすいようにデータの収集と整備をAIに任せている点が特長です。例えば週次報告など情報の更新も、AIの定期的な質問に答えるだけで終了。情報はメンバー全員が検索して閲覧できます。その際には文章を入力してもAIが意味を理解して、業務に最適な人をリストアップします。
社員間の相互理解を短時間で実現
リモートワークの浸透で社員間のコミュニケーションが減少し、放置したままでは離職率の増加などが懸念されます。こうした問題を解決するため、社員同士の相互理解を短時間で実現するオンラインコンテンツ「バヅクリ」を提供するのがPLAYLIFE(東京都港区)です。プログラムは100種類以上あり、アナウンサーや劇団俳優も講師を務め、真面目な研修と社内イベントの中間のような雰囲気で参加できます。
アバターで非言語情報読み取る
OPSION(大阪市北区)は「クラウドオフィスRISA(リサ)」を展開しており、リモートワーク中に常時ログインし、仮想空間のオフィスではテキストチャット、画面共有などの機能を使用できます。アバターを通じて他の社員に対し手を振ったり肩をたたいたりでき、リモートワークでは難しい表情や挙動といった非言語情報を読み取るため、円滑なコミュニケーションをサポートします。
顔認証と検温によるゲート解錠
ACALL(神戸市中央区)は働く場所がオフィス主体からサテライトオフィス、自宅などへと多様化が進んでいるのに対応、街全体を仮想のオフィスに見立ててチェックイン機能を装備した、管理プラットフォームを構築しています。COVID-19対策にも力を入れており、自動的にソーシャルディスタンスを確保できる「座席チェックイン」や顔認証と検温による「ゲート解錠」といった機能を導入しています。
COVID-19の影響によって東京圏は7月、初の人口転出超過となりました。リモートワークを中心に働き方改革を支えるベンチャーが活躍する場はさらに広がりそうです。
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