デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「モビリティ」で、テーマ概観を説明するのはゼン・ティンです。もともと中国で経営工学を学び、日本的経営に興味があり来日しました。人工知能(AI)や自動運転の調査に深くかかわり、現在は大企業のオープンイノベーションとスタートアップの海外進出を担当しています。
2050年はMaaS市場が900兆円に
三菱総合研究所の調査によると2018年の自動車関連市場は650兆円ですが、2050年には1500兆円に拡大する見通しです。このうち6割に相当する900兆円が次世代の移動サービス「MaaS(マース)」という新たな市場で、これからの30年は自動車産業が誕生して以来、最も大きなパラダイムシフトが生じると言われています。最近ではモビリティ領域のスタートアップへの投資額も毎年10兆円を超えており、数千億円単位の巨額出資案件も珍しくありません。
今回はインターネットに接続したコネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化を総称した「CASE」という新しい領域の進化と陸上移動を超えたエアモビリティ、MaaS、スマートシティの傾向について紹介します。
嗜好に応じた広告
まずコネクテッドの領域ですが、これまでは車両のメンテナンスや車の保険などにデータを活用するサービスが主流でした。最近では車内外にデジタルサイネージを設置した自動車に広告を表示するサービスが増えています。車内視聴者の感情や社外歩行者の注目度を分析し、それぞれの嗜好に応じた広告を提供できる点が特長です。
走り出す自動運転の商用化
自動運転の最大のポイントは商用化をいかに実現できるかです。すでに中国のPony.aiは広州の一般市街地で無人のロボタクシーを走らせています。世界で最も普及しているのは米グーグル系のWaymo(ウェイモ)。すでに1000台以上を投入しており、昨年末までに乗車回数は延べで10万を超えています。
中国のeコマース大手であるJD.comは、医薬品などを届ける宅配ロボットを20都市以上で稼働させています。高速道路では長距離物流などで優良なサービスが導入され、自動運転スタートアップの米Tusimple(トゥーシンプル)は自動運転トラックを運用するため路線ネットワークの展開を計画しています。
シェアリングは日本市場の動向に焦点を当てて紹介します。ライドシェアに対する国内の規制は依然として厳しいものがありますが、電動キックボードなどのマイクロモビリティ、タクシー配車、利用者の要望に応じて走るオンデマンドバスや、コストシェア型といったさまざまなシェアリングサービスが多く存在しています。
空飛ぶ車は2030年代に本格実用化
空飛ぶ車と称されるエアモビリティは2030年代の本格的な実用化が目標となっています。ドイツのVolocopter(ボロコプター)はシンガポールで有人飛行試験を実施しており、21年にはエアタクシーを運用する予定です。SkyDriveは日本初の有人飛行試験を成功させ、23年の販売を予定しています。品物の移動についてはドローンによる配送が着実に進んでいます。
MaaSを巡る動きは日本でも活発です。経路検索や決済・予約までを一気通貫で行えるサービスを中心に普及してきましたが、最近では医療や観光と掛け合わせたサービスが注目されています。
MaaS×医療、観光
例えばMONET Technologiesがフィリップスと共に長野県伊那市で展開している事業は、診察補助機能を車内に搭載し看護師が患者を訪問し、医師がテレビ電話を通じて遠隔診療を行っています。東急やJR東日本などは伊豆半島で、鉄道やバス、レンタカー、レンタサイクルといった交通機関をスマートフォンで検索、予約、決済し、目的地までシームレスに移動できる観光型MaaSに取り組みました。今後は住宅や買い物、介護、物流などとの組み合わせが加速し、非常に可能性が大きい領域です。また、トヨタ自動車とグーグルが構想を明らかにしているように、さまざまな都市サービスと融合すればスマートシティに発展していきます。
今回はコネクテッドやシェアリングなどの領域から5社を紹介します。
相乗りで空港シャトルタクシー
お客様を乗せずに走行するタクシーが全体の6割に達する点に着目し、プライベートではなくパブリック向けに対応したサービスを展開しているのが、NearMe(東京都中央区)です。タクシー配車アプリと連携して事前に予約。相乗りする人と目的地までの最適なルートを人工知能(AI)が判断する仕組みで、空港送迎に利用できる空港シャトルや、オフィスを繋ぐ通勤シャトルなどさまざまなサービスを展開していきます。
検出技術でMaaS市場を開拓
画像認識AIアルゴリズムの開発を行うtiwaki(滋賀県草津市)は、独自の深層学習技術を土台にした物体検出や姿勢認識、顔検出などの技術を得意としています。とくに姿勢認識の骨格検知技術は、200倍以上の高速化を実現しました。また、応用技術として新たな非接触ユーザーインタフェース技術も開発。国内外で特許を取得済みです。一連の技術をさまざまな分野に提供し、とくにMaaS分野に注力する考えです。
クラウド型タクシー配車システム
クラウド型タクシー配車システムや配車センターの委託事業を全国で展開しているのが、電脳交通(徳島市)です。タクシーの位置情報や稼働状況を一目で把握できるため、電話やアプリによって配車依頼があった場合、最適な指示を簡単に出すことができます。営業解析のモニタリングも可能になります。タクシー業界も人手不足に伴う業務の効率化が求められており、こうした課題の解決につながるシステムです。
顧客中心の観光都市を開発
scheme verge(東京都文京区)は道路や航空、海運など複数の交通機関を連携させるマルチモーダルMaaS「Horai」を活用して、顧客を中心とした観光都市の開発を進めています。顧客の動きを追跡できるという特性を生かし、都市に関わるテクノロジーやシステムを個人中心に再編するなど、次世代型のMaaSデベロッパー事業を目指していきます。
ヘリコプターのライドシェア
オンデマンド型によるヘリコプターのライドシェアサービスを提供しているのがAirX(東京都新宿区)です。ビジネスやゴルフ、観光での移動や空撮に利用できます。一般的なヘリコプターの場合、ユーザー1回当たりのチャーター料金は20万~30万円規模ですが、ライドシェアと稼働率の向上によって数万円規模に抑制できます。今後はサービスの提供エリアの拡大や、着陸地での企業連携を進めていきます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって移動中の密対策が課題となっています。スタートアップのさらなる台頭により、モビリティ革命の加速が期待されます。
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