Fromモーニングピッチ

コロナで変わる旅をサポート 観光・レジャー系ベンチャーが需要回復を後押し

松島香織

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

コロナで変わる観光をどう盛り上げていくか。観光・レジャー系ベンチャーの活躍が望まれる(Getty Images)
オンラインでリモートピッチした登壇者

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は「国内観光・レジャー」です。テーマ概観を説明するのは、DTVSで観光領域を担当している松島香織です。

 COVID-19で大ダメージ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が観光業界に与えたダメージは大きく、国連世界観光機関(UNWTO)によると2020年の世界の観光客数は、前年比で60~80%減少する可能性があります。

 国内需要は国際需要に比べると早期回復が予測されています。とはいえ、国内観光はまだまだ不安定な状況が続いていますので、今回は3つのポイントに絞ってご説明します。

 具体的には、どのような形で観光に行きたいかと動機づけする、オンラインによる“旅マエ”化、2つ目は非接触・密回避・クリーンによる安全安心な観光対策、そして3つ目は新しい働き方・暮らし方と観光の融合によって、タッチポイントをいかに増やしていけるかです。

 オンライン宿泊

 まず事前に情報を収集する旅マエ化です。移動が制限される中、情報収集を行う時間が長くなっており、この段階で潜在旅行客との関係性を築き、実際の旅行につなげることが重要です。そのためのポイントは、これまで現地でしか楽しめなかったような観光資源のデジタル化です。

 その事例のひとつが、オンラインと宿泊の組み合わせです。和歌山県那智勝浦町のゲストハウスではオンラインでの宿泊体験を提供しており、参加者は定期的にチェックインを行い、館内紹介や熊野周辺の観光案内、宿泊者同士の交流を楽しむことができます。3カ月の“宿泊稼働率”は100%で、クーポンも配布され、オンラインでつながってリアルな来訪を促します。

 アバターロボットで釣り

 ANAホールディングスは大分県内の釣り堀にアバターロボットを設置し、遠隔で釣りを体験できる実証実験を行いました。ITを活用した取り組みによってストーリー性が高まり、現地とのつながりが緊密になるのではないでしょうか。ANAはアバターを社会インフラとして活用する事業会社を設立しました。体験型の観光資源をどのようにIT化していけるかが、今後注目されそうです。

 安心安全な観光対策については、宿泊施設や飲食店などの個々の取り組みに加えて地域とも連携しながら受け入れ態勢を構築することが重要です。多くの人が交わらない体験やキックボードなどマイクロモビリティの提供も、評価されそうです。また、回遊性を向上させていくためには、地域で連携してデータを収集し、一体となって観光客に情報発信することが重要ではないかと考えています。

 エリアの混雑情報を可視化

 混雑解消の事例で紹介したいのは、人工知能(AI)・IoTを活用して空き情報を発信するバカンの取り組みです。神奈川県藤沢市と連携し、江の島エリア全体のリアルタイムな混雑情報をマップ上に可視化する実証実験を行っています。観光客はひとつの施設や個別の店だけではなく、道路や駐車場などエリア一帯の混雑情報をスマートフォンなどから確認し、密を避けて安全に行動することができます。

 移動できる家

 車中泊スペースとキャンピングカーのシェアリングサービスなどを展開するCarstayは石川県の里山で、金沢工業大学の学生と共同で、車を活用した新しい旅のスタイルともいえる地域密着プロジェクトを開始しました。軽トラックに木製の家を搭載した「モバイルハウス」の製作をはじめとして、地域住民を巻き込んで持続可能な観光拠点を開発するのが目的です。接触を避けられるため、車旅は非常に注目されており、他のエリアでも適用できるビジネスモデルとして脚光を浴びています。

 海外でもクリーン対策が進んでいます。シンガポールでは消毒・衛生管理で最高レベルに達していると認められた飲食店や学校、ホテルなどに対しては「SGクリーン認証」という品質マークを付与します。

 余暇から仕事へ

 最後に新しい働き方・暮らし方と観光の融合についてです。今までは余暇を活用して観光地を訪れていましたが、新たな働き方や暮らし方の選択肢が出てきたので、仕事という側面から地域を訪問する機会が増えました。これによって現地での生活や人との交流を通じ、一時的ではない強い結びつきを作るチャンスが生まれています。観光へのタッチポイントを広げるには好きな場所・時・仕事に合わせた拠点などを提供することがカギです。

 多拠点生活を提供するスタートアップのサービスも始まっています。好きな時に好きな場所で働くための住まいが見つかる定額住放題サービスで、滞在日数に応じたプランが複数あるため、働き方に合わせて臨機応変に利用することが可能です。滞在することにより自ずと周辺を観光しますので、生活者として地域を知ることができるサービスです。

 仕事では副業マッチングが急増していますが、シューマツワーカーは首都圏の企業・社員を対象として、地域の中小企業案件の副業に力を入れていく方針で、仕事を通じて地域を訪れる動機ができて、実際に移住に発展する事例もあります。

 今回は国内観光にかかわりのある6社のベンチャーを紹介します。

 施設の広さに応じた入場者管理

 アソビュー(東京都渋谷区)は遊び・体験の予約サイトを運営しています。1月の流通総額は前年同月比で約1.8倍でしたが、COVID-19に伴う外出自粛により4月は大きく減少しました。しかし、新しい施策によって再び成長戦略を歩んでいます。レジャー施設の密対策に着目し、チケットの購入手段を当サイトに絞ることで、施設面積に応じた適切な入場者数の管理を行えるようにしたことが功を奏しています。

 ガイド育成で品質向上

 ノットワールド(東京都中央区)は食べ歩きや体験などを半日から1日かけて楽しめる訪日外国人向けツアーを提供しています。

 COVID-19による影響を受けていますが、この期間を活用してガイドの育成事業に乗り出しており、育成者の数は5カ月で500人を超えました。これによってツアーの品質向上を図ります。また、地域の名産品を事前に取り寄せて自宅で食べながら参加できるオンラインツアーも始めました。

 日本の祭りを支援

 オマツリジャパン(東京都新宿区)は全国に約30万件ある日本の祭りを絶やさないよう、祭りが抱える人手や資金、PRの不足をオンライン・オフラインの両面から解決する事業を展開しています。残念ながらCOVID-19によって夏祭りの中止が相次いでおり、秋以降もこの傾向が続くでしょう。このためオンラインでの疑似体験の場や、新たな形の祭りを企画するためのソリューション事業にも乗り出します。

 全国の周遊生活を支援

 bnb plus(東京都千代田区)はIoTとAIを活用した分散シェアリング型宿泊施設を運営しており、顔認証によるチェックイン&アウト、決済システムを全店で導入しています。COVID-19によって、パソコンひとつあればどこでも仕事ができる、ワーケーションが注目されています。当社ではこの流れをイメージして事業を進めてきました。今後は周遊生活が行えるよう全国に拠点を整備していきます。

 格安でボートの利用が可能

 Portl(東京都渋谷区)はボートを貸したい人、操縦したい人、借りたい人をつなげるボートシェアリングサービスを展開しています。例えば半日のレンタルで40万円のクルーザーの場合、このサービスを活用すれば5万円で貸し出しが可能。複数人で利用すれば1人当たり数千円という手ごろな価格で利用できます。定期的に船が稼働することでオーナー側はメンテナンス費を削減できます。

 季節的な人手不足を解消

 地域の短期的・季節的な人手不足で困る宿泊施設や農業などの事業者と、「知らない地域へ行きたい」「仕事をしながら暮らすように旅したい」と思う地域外の若者をマッチングするWeb上のプラットフォームを展開するのが、おてつたび(東京都渋谷区)です。内容は多岐にわたり雪かきや祭りなど、多くのコト体験を用意しています。今後は法人契約を強化し、有給やリフレッシュ休暇での活用に力を入れていきます。

 COVID19によって観光需要は低迷していますが、有効なワクチンや治療薬の開発によって人・モノの移動が回復し、再び活性化するはずです。また、新しい旅の在り方も示されており、観光・レジャー系スタートアップの活躍の場は広がるでしょう。

PR会社・不動産会社の街ブランディング業務を経て現職。「起業家支援を通じて地域の可能性を広げる」というビジョンのもと、地方自治体とスタートアップの協業促進業務に従事。地方自治体と地域課題解消に資するビジネスモデルを持つスタートアップとのオープンイノベ―ションプロジェクトを複数企画・運営。Morning Pitchでは観光領域テーマリーダーを担当。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら