デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇会社を紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は先代から事業や経営資源を引き継いだ後継者が、業態転換を図ったり新事業・新分野に進出したりする「第二創業」で、テーマ概観を説明するのは地域ユニットの白石卓也です。地方銀行時代には200社以上の中小・ベンチャー企業を担当しましたが、その時の経験から事業承継の将来性を強く感じてテーマを選択しました。
後継者不足で22兆円のGDP喪失
中小企業庁が昨年2月に発表した「事業承継・創業政策について」では、後継者不足によって今後650万人の雇用、22兆円のGDP(国内総生産)が失われる可能性があると指摘しています。2025年になると、中小企業・小規模事業者経営者の年齢は70歳以上が6割を占める見通しのため、中小企業の廃業が急増するとみられることが理由です。
事業の承継先は親族が半数以上を占めていますが、最近では役員・従業員への承継やM&A(企業の合併・買収)が増えています。その中から今回は、親族内の承継に焦点を当て事例を紹介します。代表的なのがファーストリテイリングと星野リゾートです。元々は親族が設立した会社を、現在の社長が承継をして事業変革に着手し、日本を代表する企業へと成長させました。
活発な後継ぎ経営者向けイベント
後継ぎ経営者を対象にしたイベントが相次いで開催されているのも最近の傾向です。近畿経済産業局は「ぼくらのアトツギベンチャープロジェクト」を実施しているほか、鳥取銀行は「アトツギベンチャー・キャンプ」という事業支援プログラムを開催しました。
承継を妨げる3つの難所
親族内での承継を進めるに当たっては、「所有」、「家族」、「経営」という3つの大きな難所が待ち構えています。まず所有面のよくある課題としては「株式承継が進まない」「企業ガバナンスが機能していない」などがあり、家族では「家族間との関係がよくない」「家族の資産をどのように運用すべきか分からない」、経営では「売り上げが減少傾向にある」「従業員の育成ができていない」などが課題になることが多いです。これらに向き合い、いずれかの視点ではなくそれぞれのバランスを保ちながら事業を進めることが重要です。
優位性は有形・無形の経営資源
一方、第二創業の優位性は先代から受け継いできた有形、無形の経営資源で、技術やノウハウ、人材など多岐にわたります。こうした経営資源に人工知能(AI)やデジタル、IoTを組み合わせた優位性をベースに、新商品の開発や新規事業の創出、異業種参入につなげることができる点です。その結果、イノベーションを創出する事例が増えています。
代表格は1956年に西陣織の帯の製造会社として創業した、京都に本社を置くミツフジです。現在の3代目社長はネットサービスの立ち上げなどに携わった後、2014年に就任。16年には織りと編みの技術と金メッキを組み合わせることで心拍数など生体情報を計測できる、スマート衣料を発表しました。アジア太平洋地域急成長企業ランキングでは500社のうち91位という注目企業です。
3代目がIoTプランター
スマート野菜栽培を手掛けているプランティオの芹澤孝悦代表は3代目です。初代代表が日本で初めて開発したプランターにIoT技術を導入することで、電力の自給自足によるオフグリッド栽培に取り組んでいるほか、野菜を栽培する人と野菜が欲しい人をつなぐプラットフォームを運営しています。
大企業とのオープンイノベーションの事例も相次いでいます。ミツフジは同社の生体情報取得技術とクラボウが開発した暑い環境下でのリスク管理システムを組み合わせ、作業者の健康管理と健康増進を目指しています。
今回は化学や伝統産業、教育など幅広い領域の中から5社の第二創業型企業を紹介します。
3000以上の設備・金型を開発
浪速工作所(堺市南区)の谷本和考社長は5代目です。経営を引き継いだ当時の業績は赤字と黒字の繰り返しでしたが、自社の歴史を振り返ってみると、3000以上の設備・金型を開発してきたことが分かりました。その実績を踏まえて2018年からベンチャー企業と連携し、自社製品の開発に注力した結果、誕生したのが新型ろ過装置です。今年3月にリリースして以降、多数の導入実績を残しています。
黒板活用のICTソリューション
創業100年を超える黒板メーカー、サカワ(愛媛県東温市)を率いるのは坂和寿忠社長です。2010年頃からテック企業と組んで、黒板を活用した新たな教育ICTソリューションを開発、商品化しています。そのひとつが、プロジェクターを介して黒板に投影することで、教師がスマートフォンから黒板にコンテンツを映し出すことができる、ハイブリッド型の黒板アプリです。オフィス向け商品も開発しています。
小倉織で車両内装
北九州市の名産品である「小倉織」は、江戸時代初期から織られ、徳川家康も愛用するなど日本全国で珍重されていましが、一度途絶えてしまいました。それを復活させたのが小倉織物製造(小倉北区)です。織物としては珍しい丈夫さ、和洋どちらでも合わせられる現代的なデザインを活かし、小物から服飾、インテリア、家具、建築、車両内装に至る幅広い分野で他社との提携・導入実績を残しています。
ミミズで生活習慣病対策
創業138年という歴史を誇るのがワキ製薬(奈良県大和高田市)です。脇本真之介社長が父から会社を継いだ際、会社は倒産目前でしたが、試行錯誤を経て業績を伸ばし現在に至っています。これから力を入れていく事業が、ミミズから得られる機能性成分を使ったサプリメントです。世界では生活習慣病患者の増加が課題となっており、海外展開や血液の状態を可視化できるモバイルの開発などに取り組んでいきます。
農機のEC販売を推進
2007年に家業を法人化して誕生したのが唐沢農機サービス(長野県東御市)です。2代目である唐澤健之代表は、外資系ベンチャーで培った経営ノウハウやITの知見を農業に応用し、「IT×農業」関連事業を複数展開しています。そのひとつが農機の売買を仲介する「ノウキナビ」です。農機具市場は自動車のように代理店販売がメーンで、この10年ほど横ばいですが、EC化の推進で市場の活性化を目指します。
中小企業の事業承継・後継者問題は、日本経済にとって大きな課題であるため、第二創業ベンチャーの活躍の場は広がると思われます。
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