デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって働き方改革が進む中、急速にニーズが高まっている「時間有効化」です。
テーマ概観を担当するのは青砥優太郎です。主に大手企業による新規事業の創出に携わっています。
稲作作業は60年で17分の1に
アグリベンチャーの支援も積極的に行っているため今回はまず、農業の時間有効化がどれだけ進んだのかについてお話します。
稲作農家の場合、今から60年前の1960年は、3000平方メートル(30アール)の作業を終えるのに17日という期間を要していましたが、デジタル技術の進展によって現在は、わずか1日で完了します。有効な時間を創出できるようになったことで、稲作農家の働き方も大きく変わりました。
ジョブ型へのシフトが進む
次に法人・個人の時間有効化をめぐる歴史を振り返ってみましょう。1970年代の高度成長期から時代に応じて働き方と法律が変わっています。現在は一億総活躍社会の提唱や働き方改革関連法に基づき、「メンバーシップ型からジョブ型」へのシフトが進んでいます。会社の拘束時間が減る中、法人側にとっては生産性の向上、個人の間では労働以外の時間の有効活用が強く求められています。
例えばDTVSが大企業の担当者を対象に4月に実施したアンケートで「新規事業を構想する上で機会ととらえている領域は」という質問に対し、約8割が「ワークスタイルの変化」と回答しています。COVID-19によって時間の有効化に対する意識はますます強くなっていくと思われます。
法人もさまざまな取り組みに着手しており、SlackやZoomなどスタートアップから誕生したサービスの導入が加速しています。
年2万1000時間を削減
難易度は高いですがバックオフィス改革という観点から大企業は、事務作業の自動化ロボット「RPA」の導入など既存事業の置き換えという領域に挑戦しています。BizteXやBOD、ウィルゲートなどRPAを提供している企業もたくさん存在し、ある地方銀行では、年間で2万1000時間に及ぶ労働時間の削減につなげました。これは正社員10人分の年間総労働時間に匹敵するもので、その時間を有効に活用すれば新規事業の創出にもつながります。
大手企業は自社の採用プロセスを削減するため、タレントアンドアセスメントのAI(人工知能)面接サービス「SHaiN(シャイン)」を積極的に導入しています。
空き時間を狙ったサービス
個人の時間有効化にかかわるサービスについては、COVID-19によって既存戦略を転換するケースが相次いでおり、個人の生活の質向上につながると期待されています。
また、個人が空き時間や働き方改革によって新しく生み出されていく時間をうまく活用し、自己研鑽や趣味、新しい所得の創出というところに使っていくのではないかと予測されており、多種多様な領域でベンチャー主体によるサービスが誕生しています。
遠隔地でリアルな旅行体験
大企業とベンチャーの協業事例も生まれています。NTTドコモとH2Lは、遠隔地にいながらリアルな旅行体験ができる体験型観光の実証実験を行いました。活用したのは第5世代移動通信システム「5G」とボディシェアリング技術を活用した、カヤックロボットシステムです。
COVID-19によって個人の時間に対する意識が急激に変化し、企業・個人の在り方が問われる世の中になります。とくに法人は、変化対応型のスピード経営に積極的に取り組んで欲しいと思っています。今回は時間の有効活用に寄与する6社のベンチャーを紹介します。
文化イベントのサブスクサービス
Sonoligo(愛知県刈谷市)は文化イベントのサブスクリプションサービスを提供しています。利用プランは無料、月額980円、2980円の3つ。料金に応じて音楽・スポーツ・美術・伝統芸能などに参加できます。現在はCOVID-19対策の一環として、アーティストと交流できるオンラインコンテンツにも力を入れています。今後は映画やテーマパークなど、取り扱う領域も広げるほか、福利厚生を重視する企業との連携も進めます。
家庭内の片づけロボット
AIベンチャーのPreferredNetworks(プリファードネットワークス、東京都千代田区)は大企業との連携によって事業を拡大してきましたが、一般消費者向け市場に参入します。開発を進めているのは家庭用の片づけロボット「Baku」。障害物を回避しながら走行し、一つ一つの物体を認識する画像処理など、これまでの事業で培ってきた技術を生かします。家具や家電と連携して片づけや収納の悩みから解放します。
プロとの仕事マッチング
Zehitomo(東京都千代田区)は、カメラマンやパーソナルトレーナーなどのプロに仕事を依頼する際のマッチングサービスを提供します。プロが仕事の提案を行い、独自のアルゴリズムを用いることで、利用者のニーズに合致したプロを採用することができます。サービスとの出会い方、働き方を変えることで生産性の向上に貢献するとともに、大企業内人材の新たな活用も支援していきます。
リモートワークのアバター
COVID-19によってテレワークが普及したことで、「リモートとオフィスで交互に働きたい」と思う就業者は増えています。一方でコミュニケーションの希薄化を懸念する管理層も少なくありません。こうした認識のギャップを埋めるのが、H2L(東京都港区)が開発したリモートワーカーのアバター、HoloD(ホロディ)です。オフィスに出社しているかのような状況を再現し実物と同じようなコミュニケーションを可能にします。
営業職に特化したワークシェア
カクトク(大分県別府市)は、営業職に特化した国内最大級のワークシェアリングプラットフォームを運営しています。約7000人の営業職のフリーランスと約500社の営業代行会社のデータが登録され、合計登録者数は1万人を超えます。登録者は平均35歳の経験を積んだプレーヤー層で、介護や育児をきっかけに理想の働きかたを求める人が多く、最適なワークスタイルを見つけることができます。
在宅向けフィットネス
SOELU(東京都港区)は、月額制のライブフィットネススタジオを運営しており、運動習慣がなかなか身に付かない層に対し、ビデオ通話の仕組みを活用したグループレッスンを1日100本以上、店舗型ジムの半額以下で提供しています。在宅フィットネスのニーズは高まっているため、ヨガ以外の領域にも積極的に進出し、健康関連のサブスクリプションサービスの開発に取り組みます。
COVID-19によって働き方改革に対する関心は一気に高まっていますが、多くの国民はそれに伴い産出される時間を、まだ十分には活用できていません。それだけに、この分野にターゲットを定めたスタートアップの台頭が望まれます。
【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら