デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。
モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は高齢者の生活や介護現場を支える「Care Tech(ケアテック)」です。
テーマ概観を説明するのは前出忠彦です。大企業とスタートアップの協業推進に携わっています。脳こうそくで倒れた祖母を10年間にわたり、母を中心に家族介護をしていた経験を踏まえ、今回の特集を担当することになりました。
市場は拡大の一途
介護業界は卵のような構造をしています。黄身の部分が居宅介護支援や地域密着型サービスなどの公的保険サービスとすれば、周りの白身は運動や食、予防といったヘルスケアといわれる公的保険外サービスに当たります。それが超高齢化社会という「お皿」に載っている構図を想像してみてください。
続いて仕組みです。公的保険サービスは基本的に自己負担が10%で、残りの90%は公的介護保険で賄われる仕組みになっていますが、このサービスの報酬は予めサービスごとに決められています。このため介護事業の経営は、定期的に見直される介護報酬の影響を大きく受けます。
同サービスの市場規模は右肩上がりを続けています。サービスが導入された2000年は3兆6000億円でしたが今や10兆円を超え、これに伴い保険料の負担額も増えています。
深刻な介護人材不足
公的介護保険外サービス市場も順調に成長しており、経済産業省は25年の市場規模が16年比で32%増の33兆1000億円程度まで拡大するとみています。とくにフィットネスやトレーニング機器など、高齢者の運動量を高めるサービスの伸びが期待されています。
一方で深刻な社会課題があります。支え手である介護人材の不足です。需給ギャップは拡大し続け、2035年には68万人分の介護職員の労働力不足が予測されています。このため要介護や、その予備軍で心身の活力が低下する「フレイル」といった状態にならないようにするため、予防サービスの拡充が社会として求められています。
さりげない見守りデバイス
ここでケアテックを巡る最近のトレンドを見てみましょう。大きく3つに分けられます。
まず「高齢者の運動量の向上と外出を促すパーソナルモビリティ」。ウエアラブルタイプの時計端末を活用したトレーニングや、VR(仮想現実)によるリハビリ治療機器、電動タイプの車いすなど、さまざまなサービス・商品が登場しています。次に「日常生活に溶け込む、さりげない見守りデバイス」としては、テレビや冷蔵庫、ベッド、電気の使用量などで高齢者や要介護者を見守るというサービスが相次いで登場しています。3つ目が「労働力不足が深刻な介護現場の業務支援AI、介助ロボット」でケアプランの作成支援を行う人工知能(AI)や、実際に介助を行うロボットなどが活躍しています。
AIの活用も相次ぐ
スタートアップと大企業や自治体との協業事例も相次いでいます。IoTベンチャーのチカク(東京都渋谷区)とセコムは、高齢者向けの新サービス「まごチャンネル with SECOM」を開発、セコムを通じて販売を開始しました。動画や写真などを通じてコミュニケーションを楽しみながら、見守りができるのが特徴です。
見守りセンサーシステム事業などを展開するエコナビスタ(東京都千代田区)はヒューリックと提携し、AIやIoTを活用したスマートシニアハウジング構想に着手しました。神奈川県ではエクサウィザーズ(東京都港区)が開発を進める要介護度予測AIの実証事業を行いました。
今回は成長著しいスタートアップ群の中から人材不足などの市場課題を踏まえ、ロボットやAI事業などを展開する5社を紹介します。
上り坂も快適な“手押し車”
RT.ワークス(大阪市東成区)は、高齢者が外出の際に活用する手押し車「シルバーカー」の弱点を克服した、歩行アシストロボット「RT.2」を販売しています。上り坂ではパワーアシストが働いて楽な歩行を実現する一方で、下り坂では自動ブレーキで減速。坂の途中で手を放してしまっても、センサーによる感知で自動停止します。すでに介護市場で5000台の販売実績があります。
IoT見守り
高齢者の体調の急変や事故を未然に防止する次世代型見守りサービスを提供するのが、エコナビスタです。大阪市立大学と共同開発した独自のアルゴリズムによって、疲労回復や快眠など健康維持のための指数を用いてデータを解析し、健康面でのアドバイスを行います。睡眠と疲労回復に影響を及ぼす製品や食品を共同開発するため、アパレルや寝具、食品メーカーとの協業にも取り組む考えです。
分身ロボット
利用者のもう一つの身体として、あたかもその場にいるようなコミュニケーションが可能な分身ロボット「OriHime」シリーズを展開しているのが、オリィ研究所(東京都港区)です。ロボットにはカメラやマイク、スピーカーが搭載されており、タブレット上のアプリを通して直感的に操作を行えます。難病など身体的なハンディキャップがある人はもちろん、健常者の新しい働き方にも寄与します。
施設と潜在介護士のマッチング
介護人材不足の問題を解決するため、介護ワークシェアリングサービス「カイスケ」を展開しているのがカイテク(東京都港区)です。人手が不足している介護施設と、空いた時間を有効活用したい介護士や看護師との間を、単発案件に絞り直接的にマッチングする仕組みです。「慢性的な労働力不足」といった事業所の課題と、介護士の「副収入を得たい」「複数の事業所を見比べたい」といったニーズに応えます。
約10秒で尿を解析
ユカシカド(東京都渋谷区)は、採尿を通じ栄養の過不足を評価できる世界初のパーソナル郵送キットを提供しています。1週間程度でスマートフォンやパソコンから結果を閲覧できる点が特長です。また、簡易版もリリースしました。専用の検査シートに尿をつけ、シートの変色具合を専用アプリで読み込むと約10秒で解析が完了するので、ビタミン・ミネラル・食事の質などを評価できます。
COVID-19に罹患した場合、高齢者や基礎疾患を持つ人の致死率が高いため、高齢者・介護施設では、より高度な対策が求められます。それだけに、ケアテックベンチャーのさらなる飛躍に注目が集まります。
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