社長を目指す方程式

私たちはなぜ、誰かに何かを頼むことを気まずく思うのか?

井上和幸
井上和幸

低く見積もりすぎ?「頼みごと」受けてくれる確率

 これだけの苦痛を感じざるを得ないなら、私たちはむやみに何かを依頼・相談すべきではないのでしょうか?

 上記の通り、誰かに何かを頼む際に感じる「苦痛の大きさ」は、その要求がどれくらいの割合で拒絶されるかという予測によってかなりの部分、変化します。しかし、私たちはこの予測がとてつもなく下手なのです。

 コーネル大学の組織行動学教授、バネッサ・ボーンズは、人はなぜ誰かに直接的に頼み事をするときに、相手がそれを受け入れてくれる確率を実際よりも大幅に低く見積もるのか、について研究しました。その実験例をいくつかご紹介しましょう。

・コロンビア大学の学部生が、キャンパス内の見知らぬ人に10分ほどかかるアンケート調査を依頼する実験で、事前に被験者に「5人に記入してもらうまでに何人に声をかける必要があると思うか」を尋ねたところ、回答の平均は20人だった。しかし実際には平均10人で済んだ。


・被験者は、キャンパス内で見知らぬ学生にiPad上に表示される雑学クイズに答えてもらうゲームをやり、一定時間内でどれくらい回答してもらえるかについて、事前の予想では平均25問だったが、実際は49問だった。相手のクイズ正解数、クイズを解くための時間のいずれも少なく見積もった。


・募金ボランティアたちに、「所定の募金目標額を達成するために何人に連絡を取る必要があるか」と「一人あたりの平均寄付額」を尋ねたところ、予想は平均210人、平均寄付予想額は48.33ドルだったが、実際には平均122人で目標達成でき、平均寄付額は63.8ドルだった。

 ボーンズは被験者延べ1万4000人以上の「見知らぬ人」に様々な種類の頼みごとをした研究を分析し、被験者が成功率を平均48パーセントも低く見積もっていたことを明らかにしました。私たちが思っているよりも約2倍、人は頼みごとを受けてくれるということなのです。

「頼まれた側」の心理を紐解く

 頼まれた側に立ってみれば、気がつくことも色々とあります。私たちは誰かに何かを頼まれると、その人がよほど嫌いな人でなければ、期待に応えよう、イエスと言わなければ、というプレッシャーを感じます。特に面と向かって頼まれると、おいそれとは断れないですよね。

 『影響力の武器』で有名なロバート・チャルディーニが実験で明らかにした説得テクニックに「ドア・イン・ザ・フェース」と「フット・イン・ザ・ドア」がありますが、これも頼まれた側が断りにくくなる心理を説明しています。

 「ドア・イン・ザ・フェース」は、大きな頼みごと(玄関のドアをピシャッと閉められてしまうような)を先にして断られた後に、それよりも小さな頼みごとをすると相手が受け入れてしまう心理です(ex.海外旅行はNGだが、週末の小旅行はOKになるなど)。これが説明していることは、人は一度断ったからといって二度目も断るわけではなく、逆に一度目に断った申し訳ない心理が働き、特にこのテクニックのポイントである「より小さな、控えめな」要求には応えてしまうことになるのです。

 「フット・イン・ザ・ドア」は逆に、一度何かに応えたことがあると、その一貫性を保とうという心理から二度目、三度目も依頼を受けてしまう心理を使ったテクニックです。SaaS型サービスなどで、まずは無料、そこからライトプランのユーザーへ、さらに上位プランへとアップセルをかけていくのが効果的なのは、この心理を使ったセールステクニック、ビジネスモデルです。

 少しうがった見方に見える、頼まれた側の心理を紹介しましたが、純粋に、人は頼まれたことに応えて、相手に喜ばれることで自分も大きな喜びを感じます。また、人は自分が助けた人を好きになる(これも一貫性を保とうという人間心理が働く結果でもありますが)ともいえるでしょう。

 このように、案ずるより産むが易しで、私たちは何かを実際に頼んでみると、相手は事前に思っていた以上に受け入れてくれるし、快く助けてくれるものなのです。

*         *         *

 「人は頼み事に応じることで、依頼者に好意を持つようになる」。上司のみなさんとしては、この心理を使わない手はないですよね。

 この相手心理を知ったからには、頼み上手な上司となり、相手からの「助け」と「好意」の一石二鳥を得る<上手い(ズルい)>上司になりましょう。

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

井上和幸(いのうえ・かずゆき)
井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
経営者JPが運営する会員制プラットフォームKEIEISHA TERRACEのサイトはこちら

【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング