この言葉を聞いて、「もう姥捨て山と呼ばせない」と決意した瀧さん。入居者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げるために、何かできないかと模索していく。そこで出会ったのが、回想フォンだった。
回想フォンは、寝たきり社長として有名な佐藤仙務さんのアイデアで始まったものである。佐藤さんは、重度の障がいがありながらも事業として回想フォンの普及に取り組んでいる人だ。
「佐藤さんと連携することで、入居者のQOLを上げられると考えました。一昨年に導入し、週に1回30分のサイクルで行っています。最初の頃は、入居者さんがパソコンに慣れるのに時間がかかりましたが、回数を重ねていくうちに楽しくなっていったようで、今では生きがいだと言う方もいるほどです」
傾聴カウンセラーを務める障がい者には、1回5000円の報酬が支払われる。自宅にいながら、収入を得ることができる画期的な取り組みである。
これからの福祉現場にはICTが不可欠だという瀧さん。くすのきの里ではコロナ禍をきっかけに、LINEやZoomを使ったオンライン面会も始めている。デジタルツールを活用することで業務を効率化し、余った時間を入居者とのコミュニケーションにあてたい。そう願い、日々がんばっている。
「社会福祉の甲子園」
これら2つの活動は、「社会福祉HERO’S(ヒーローズ)」というコンテストで、決勝へと進んだものである。2018年に始まったこの大会は、新しい福祉活動に取り組む若手を表彰することを目的に開催されており、「社会福祉の甲子園」と呼ばれている。福祉の仕事がクリエイティブであることを発信する狙いで、年に1度、全国規模のコンテストを開いてきた。昨年12月に開催される予定だった2020年の全国大会が今年5月に開催。7人が決勝に残り、見事優勝したのが、障がい者アートに取り組む上馬場鉄也さんだ。
高齢化が進み、現場では人材不足が深刻化しているが、その原因の一つに福祉業界へのネガティブなイメージがある。それを知恵と工夫で変えていこうとする若き担い手たちの挑戦。これらの活動は福祉業界のみならず、社会全体にも大きな成果をもたらすのではないだろうか。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))