ビジネストラブル撃退道

「部下に指導してもウザそうにしてる…」管理職男性の気持ちをラクにする心持ち

中川淳一郎
中川淳一郎

 「部下が言うことを聞いてくれないんです……。何か指導をしてもウザそうにしている。本人のやりたいことと、その時の仕事内容が違うためやる気がなかったのかもしれません。しかも、気付いたらさっさと転職をしていて、これまで教えたことは一体何だったんだ」

 こんな悩みを40代の管理職男性から聞きました。とはいっても、私は部下を持った経験がなく、これは一体どう答えていいのやら、と思ったのですが、「部下的」な人々とは多く付き合ってきました。ウェブメディアの編集をしていただけに、多くのアシスタントやライターと付き合ってきたのですが、明確に何らかの指示をするようなことはほぼなかったです。

 私が自分から指導しない理由

 なぜかといえば、他人の人生に口出しをしたくないと考えてしまうんですよね。フリーランスなので各人がその道のプロなわけで、自由に生きていくという側面が強いのです。互いに参考になる面があればマネすればいい。疑問があれば聞けばいいけど、自分からはいちいち指導をしない。

 なぜそうしてきたのかと考えたら、他人の領域に入って恨まれたり、ウザがられたりするのがイヤだったのでしょう。こう書いてしまうと「あなたは部下を持ったことがないからそんなことを言えるのだ。会社という組織ではそうも言っていられない」と反論が来ますが、私だって会社員同様、プロジェクトのメンバーだったわけですよ。

 フリーランス同士と正社員同士の関係は違うものの、どちらもプロとプロの関係です。だったらこの考えを同じ会社の上司・部下にも当てはめられないものでしょうか? 同じ会社の上司・部下であろうとも、プロとプロの関係性であることは違いありません。そうすれば、上司も部下も余計なストレスを感じないで済むのではないかと思います。

 部下が自己流でミスをした場合、仮に指導をしていたら「オレが言った通りにやらないからだ!」とネチネチと文句を言ってしまうかもしれません。しかし、勝手にやらせておけばその部下は次回からは正攻法で無難にこなしてくれることでしょう。とにかく組織ってものは、特に統制することなく、精鋭が自分勝手に動いておけば案外うまく回るものなのです。

 「会社の成長」と「個の成長」

 私はPR(広報)のゼミの講師をこの12年ほど続けてきたため、様々な業種のPRパーソンと会ってきました。彼らにとっては上司よりも私のような講師の方が飲み会等に誘いたいようで、PRのやり方やら果てには転職の相談などもされたものです。

 多分、多くの若者は社内に相談相手を作るより、社外に作ることを意図的に行っており、自分のキャリアを会社の中だけで捉えるのではなく、転職やフリーランスへの転身、起業も視野に入れたうえで捉えていると感じます。

 だから、前出の管理職男性とは考えが合わない。同氏はその会社の成長を考えている一方、部下は自分の成長を考えている。ここに齟齬がある以上、話がかみ合わなくなってしまうのです。

 ほんの15年程前まで、「転職35歳限界説」というものがありました。しかし、70歳までの就労も現実味を帯びている中、この説はぶっ壊れています。現に私の会社員時代の同期(47歳)もこの度某グローバル企業のデジタルマーケティング部門への転職を果たしました。

 そういった意味で、地方で雇用があまりない場合を除き、転職はすぐそばにあるものですし、正社員であろうとも一生その会社に骨を埋めるつもりはないでしょう。所詮は他人の人生です。「聞かれたら答える。ウザがられないことこそ重要」のスタンスで生きていればあなたの人生はラクになるでしょう、と彼に今度伝えようかと思います。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら

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