■売れない時代も営々とブレずに一貫した訴求を続ける力
それにしても、ウイスキーがまったく売れていなかった時に仕込んだ希少な樽がもてはやされる時代のめぐりあわせもウイスキーという製品の面白さを感じさせてくれますし、そんな”ままならなさ”自体が製品としての「深さ」の表れと言えるかもしれません。
そんな原酒樽の枯渇から、販売休止となっていた「白州12年」が約3年ぶりに3月30日より数量限定再発売されることで、相当な争奪戦が予測されます。
やはり売れない時代もブレずにブランドを育てた、最大の非上場企業とも言われるサントリーの企業力に刮目させられます。大して人気のない時代から、訴求は一貫して変わりません。南アルプス甲斐駒ヶ岳のふもと、世界でも珍しい高地に位置することから“森の蒸溜所”とも呼ばれる白州蒸溜所の清涼感を、ブランドカラーの緑とあわせて営々と訴求してきたことは昔からのファンは誰でも知っています。ジャパニーズウイスキー人気を牽引してきたトップブランドの一角というポジションが偶然の産物でないことは明らかです。
■日本がプレミアムブランドで勝負する時代のリーディングケース
高度成長期以来、松下幸之助の「水道哲学」に代表される「生活者が必要とする良品を大量に生産し低廉に供給すること」を得意とし、世の中に貢献してきた日本企業ですが、時代は大きく変わり中国韓国台湾企業などにそのお株を奪われることが多くなりました。
そんな時代の日本の製造業次の時代の戦略を考える上で、「白州」などジャパニーズプレミアムウイスキーブランドの成功は、大いに参考になるように感じます。まず何より日本人ならではのモノづくりのこだわりと完成度によるプレミアム性。そして供給量を追求せず、どこまでもその価値を評価してくれる生活者に提供することに徹する(徹する他ない)販売方法。
フェラーリは「需要より常に1台少ない台数を供給する」と公言しています。階級社会を背景にしたヨーロッパプレミアムブランドに「水道哲学」はそもそも存在しませんが、日本ならではのプレミアムブランドの方法論は、やはりモノづくりのこだわりに基盤があるように思います。そういう意味では、販売好調を受けて各社生産設備の増強に動いていますが、いかに裏切らない品質、欲張らないかもジャパニーズウイスキーブランドに求められる自制心かもしれません。評価に磨きをかける徹底したこだわりを貫けば、今後も大量生産大量供給に行き詰まる日本製造業生き残りの成功事例を示すように思います。
満を持しての3年ぶり「白州12年」発売を楽しみに待ちたいと思います。誰もが飲んでみたい一品だけに、果たして手に入るかどうか。そんな状況も含めて楽しみに感じさせてくれることこそが、プレミアムブランドの証に違いありません。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら