今日から使えるロジカルシンキング

衣料進出のニトリを「無謀」で片づける人の残念さ ユニクロ野菜からの学び

苅野進
苅野進

アパレルに進出したニトリの本気度

 家具の製造小売で好調な業績を続けているニトリが、アパレルへの進出を始めています。「N+(エヌプラス)」と名付けられ、2019年に始まったこの婦人衣料プロジェクトは2021年1月現在、まだ20店舗ほどの展開となっていますが、コロナの影響で撤退して空いたテナントなどを狙い、近い将来に200店舗の展開を目指していると発表されています。アパレル大手のユニクロが800店舗ほど、GAP(ギャップ)は100店舗ほどですから片手間でなない大きな柱を目指していると言えます。

 ニトリと言えば、家具の「製造小売」で大きな成功を収めた企業です。そして、日本のアパレルと言えば、これもまた「製造小売」のスタイルで好調なユニクロが存在します。ニトリが、家具で培った「製造小売」の能力でアパレルでも成功を収めることができるのか注目されます。

 ニトリとユニクロの成功で注目されている「製造小売」というスタイルですが、それぞれ家具、洋服以外の分野への展開はそう簡単ではないでしょう。たとえばユニクロが「野菜」への進出を試みて失敗したことは記憶に新しいのではないでしょうか。

 この時、「アパレルで培った製造・物流・販売のノウハウによって良い野菜を素早く届けることができる」と宣言していましたが、大失敗事業となりました。ユニクロにとって、「商材が違えば、製造小売のスタイルも異なってくる」という大きな学びになったようです。ユニクロはアパレルと親和性が高いと言われている「靴」でも成功できていないことから、ビジネスモデルとしての「製造小売」はそう簡単なものではないことがわかります。

 私たちは、ビジネスの教科書などで「製造小売」というものを大まかに学びますが、実際には本当に細かい調整が必要なのです。そういった意味で、ユニクロやニトリといった「成功体験」を持った企業の新たな挑戦の失敗と成功の軌跡を「細かく」チェックすることは、私たちのビジネスの引き出しを増やすのに役立つはずです。

 ニトリのアパレル進出は、100人の評論家がいればほぼ全員が「勝ち目なし」と判断するものでしょう。中価格帯のアパレルが総倒れの状況で、ユニクロが抑えているような購買層に勝ち目があるのでしょうか? 典型的なレッドオーシャン市場に出て行く戦略をぜひ注視したいものです。製造小売は「製造」という大きな投資を伴います。ニトリほどの人材を抱えている企業であれば、相当な戦略があるはずですので生きた教材・事例としてウォッチしましょう。

撤退は悪? 日本企業の残念な癖

 日本人の悪い癖として、ユニクロの野菜進出失敗を「それ見たことか」と揶揄する声が多いのですが、ユニクロは「野菜進出失敗を次に活かす」と宣言してその後も色々なプロジェクトにトライしています。その中から、トレンドに敏感な若年層をターゲットに、ユニクロよりもさらに低価格帯のアパレルを製造販売するGU(ジーユー)のような大きな柱も生まれています。ユニクロは野菜事業から1年ほどで撤退していますが、この撤退スピードこそユニクロの強さの側面であると言えます。

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