それは、内線電話や固定電話です。
内線電話や固定電話は、「席が固定だからこそ機能するもの」の代表格だからです。社員一人ひとりに内線番号があてがわれており、個々の番号があると結局、内線電話に自分宛の電話がかかってきてしまうので、電話の近くに座る必要があります。
キャビネットなどの収納用品も同じで、固定のものが存在してしまうと「固定席」という概念が払拭できず、結局は今までの座席に座っているほうが効率的に働けてしまいます。フリーアドレスを実現するコツは、とにかく「固定」「個人に紐付くもの」をいかになくすかです。
通信技術が未発達だった遠い昔はおそらく、じかに会わないと会話できなかったり、「ノック」や「呼び鈴」で相手を呼び出していたでしょう。やがて技術が発達し登場したのが、対面なしに、移動しなくても瞬時に会話ができる「電話」でした。その技術が社内コミュニケーションツールとして、そして来客の取り次ぎツールとして定着してきたわけです。
しかし、思い出してみてください。社内のコミュニケーションで、内線電話を利用する機会は今どれだけあるでしょうか? テレワークが導入される以前から、メールやチャットを利用することのほうが多かったのではないでしょうか。
こう考えてみると、「来客の取次のための内線電話」がいかに古い文化かということに気づかされます。テクノロジーやインターネットがなかった頃の来客の取次をいまだに文化として残している企業は少なくありません。選択肢が広がった今、フリーアドレス化を実現するには、「いかに古い文化から脱却できるか」が成功の鍵になると言えますね。
私が受付嬢だったら…相当困る
「私がいまも受付嬢だったら…」と考えることがあります。企業の多くがテレワークを導入し、フリーアドレス化したとき、「自分の仕事がなくなるのでは?」と思うのと同じくらい心配になるのが、「来客の取次にどれだけ時間がかかるだろうか」ということです。
受付嬢がいる多くの企業の来客の取次方法はいまだに内線電話です。席が決まっていて、ある程度社員の働くフロアやエリアが決まっていれば、離席中の担当者に代わって内線に出てくれた方も、担当者の居場所や行動の見当がつきやすいでしょう。しかし、全部署・全社員がフリーアドレスとなる場合、その日に誰がどの席で、どの場所で仕事しているか受付嬢も同僚も把握することが難しいので、本人が内線や電話に出なかった場合の取次が相当困難なものになる事が予想できます。
今までは固定席があることによって部署に対する「帰属意識」や「チームとして来客を伝える義務」みたいなものを持っていた人も少なくないと思いますが、フリーアドレスになった瞬間、そういった概念がなくなる可能性は少なくないと思います。