10月4日に高田賢三さんが亡くなりました(関連記事)。高田賢三さんはファッションブランドKENZO(ケンゾー)の創業者であり、デザイナーでした。実は、KENZOは名前こそ残っていますが、20年以上前からこのブランドのオーナーもデザイナーも高田賢三さんではありません。2004年にアテネオリンピックの日本代表ユニフォームをデザインしていますのでデザイナーとして引退していたわけではなく、この時はすでに独立したデザイナーとして活動していました。
1993年以来、KENZOというブランドを運営しているのはフランスの企業体であるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)です。今回は、このLVMHを題材に「ポートフォリオ」という考え方をご紹介します。
「ポートフォリオ」は、簡単に言うと「卵を同じカゴに入れておくな」という考え方です。卵を1つのカゴに入れておくと、そのカゴが落ちたときにすべての卵が割れてしまうからです。つまり、色々な商売を色々な所で展開しておくことで、1つがダメになっても他の業績でカバーできるようにリスクを分散することを目指すものです。
「ファッションブランド」の経営は、多くのみなさんがお持ちのイメージの通り、非常に浮き沈みの大きなものです。前のシーズンに買ってくれた顧客が次のシーズンに買ってくれるとは限りません。顧客にとって非常にスイッチコスト(切り替え費用)が低いものです。創業以来ずっと一定の売り上げをキープしていくなどということは難しいものです。また、贅沢品なので国の景気にも大きく左右されることで知られています。
LVMHは高級ファッションの分野でいち早く「ポートフォリオ」の企業戦略を採用しました。そして、そのポートフォリオの重要な軸は2つです。
- 多くのブランドを揃える
- 世界中に展開する
多くのブランドを抱えることで、流行の浮き沈みに対応します。つまり、抱えているブランドすべてがヒットしなくても、全体として、ある程度の売り上げを上げるという考え方です。
そして、世界中に店舗を展開することで、ある地域が不景気に陥ったとしても他の地域でカバーするという戦略をとっています。現在ではヨーロッパの不景気を、中国を中心とするアジアでカバーしています。
具体的にLVMHのポートフォリオの中身を見てみましょう。
LVMHポートフォリオの「中身」
ファッションブランドとしては、社名にもなっているルイヴィトンを筆頭に、フランスのクリスチャンディオールやセリーヌ、イタリアのフェンディ、スペインのロエベ、日本のKENZO などを揃えています。さらにアメリカを代表する宝飾品ブランドであるティファニーの買収(関連記事)も2021年に完了させることを目指しています。
ファッションはどのブランドが大きな流行を生み出すかはわかりませんので、LVMHはブランドの個性をグループで統一化することなく、それぞれのデザイナーに大きく任せているようです。コロナで苦しんだ時期でしたが、アジアとアメリカではクリスチャンディオールが好調だったと発表されています。一方、マーケティングやファイナンスなどはグループ全体で効率よくバックアップしています。
LVMHは75のブランドを抱えています。
【LVMHを構成する主なブランド】
・Louis Vuitton(ルイヴィトン)
・LOEWE (ロエベ)
・CELINE (セリーヌ)
・KENZO (ケンゾー)
・EMILIO PUCCI (エミリオ・プッチ)
・Berluti (ベルルッティ)
・Dior / Christian Dior (ディオール/クリスチャン・ディオール)
・FENDI (フェンディ)
・GIVENCHY (ジバンシー)
・Donna Karan (ダナ・キャラン)
・MARC JACOBS (マーク・ジェイコブス)
・TAG HEUER (タグ・ホイヤー)
・Chaumet (ショーメ)
・ZENITH (ゼニス)
・BVLGARI(ブルガリ)
・Dom Perignon (ドン・ペリニヨン)
・Moet & Chandon (モエ・エ・シャンドン)
・Krug (クリュッグ)
・Ruinart (ルイナール)
・Veuve Clicquot Ponsardin (ヴーヴ・クリコ)
・Hennessy (ヘネシー)
さらにLVMHの「MH」はモエ・ヘネシーのことです。シャンパンの「モエシャンドン」とコニャックの「ヘネシー」ですね。このグループはファッションブランドと並んで、洋酒部門も大きく展開しています。こちらは、ファッションよりも手堅く推移する分野となっています。
ドンペリニョンやクリュッグ、ヴーヴクリコもLVMHの一員です。というわけで、みなさんが高級シャンパンを買う時に、どれがいいかなと悩んでいても、LVMHにとっては「どれでも好きなものをどうぞ」という感じなのです。巣ごもり贅沢品としての需要もあり、こちらもそれなりに堅調でした。