ブランドウォッチング

マイボトル文化を築いたサーモス 成功したカテゴリーブランディング

秋月涼佑
秋月涼佑

 そんな誰でも簡単に作れる製品ではないだけに主に専業メーカーが製品を提供している市場ですが、世界最大ブランドがサーモスというわけです。かつては、象印、タイガーの2大メーカーに市場シェアを奪われて事業自体の継続が危ぶまれた時期もあったそうですが、乾坤一擲ターゲットをその時代あまり水筒を持ち歩く習慣がなかった「OL」や「学生」に焦点を当てることで次第にファンを増やし今や多くの人から認知されるブランドとなったとのことです。

 大きくない市場に特化してブランドを育てる

 決して市場性が巨大なカテゴリーというわけではないはずですが、高い信頼性が求められる製品だけに、競合品や後発品が続々市場参入しても高価格、高機能ポジショニングに特化し、販路も百貨店や高感度な専門店に力を入れるなどして、営々ブランドを大事に育ててきました。

 今では、短時間火にかけた調理鍋を保温容器で丸ごと保温し、余熱で食材に火を通す保温調理ができる調理器具「シャトルシェフ」などサーモスらしさを生かした調理器具や、人気のアウトドアやバーベキューニーズにこたえるソフトクーラーなど製品ラインナップも豊富です。

 サーモスのホームページには、「魔法びんのパイオニアとして守り育ててきた断熱技術と、ユニークな生活快適発想を柔軟に組みあわせ、もっとおいしく、パッと便利で、ほっとここちよい、夢ある暮らしを創造します」と「サーモスマジック」のブランドコンセプトが提示されています。

 今や、直営のブランドの世界観を伝える「サーモス スタイリングストア」を東京・二子玉川や兵庫・西宮に展開するなど、ますますサーモスブランドが広がっていく勢いを感じます。

 私が素敵だなと思うのは、決して大きくも楽でもないカテゴリーで、歴史と技術がありながらも悪戦苦闘しつつ諦めず新機軸を開発し、丁寧にファンを育ててきたことです。日本だけでなく世界市場にサーモスブランドを打ち立てる日本のヘッドクオーター、サーモス株式会社も資本金3億円、社員300人ちょっとと決して巨大な会社ではありません。

 でも彼らは、実際に日本人、そして今や世界の色々な国々で具体的に何らか生活者のライフスタイルを変えました。製品やブランドを通して、人々の生活をより豊かに変える。まさに製造業企業の本懐ではないでしょうか。そしてブランドを大事にすることで、さらに多くの製品やライフスタイルを生活者に提案できる機会が生まれていく。

 そんなサクセスストーリーに、元気をもらえる気がするのは私だけでしょうか。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)
秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら

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