- 「日本のメーカーは、中国製に押されてどこもジリ貧だよね」
- 「日本のこだわりって結局ガラパゴスだったんだよ」
なんとなく、このような印象で語られることの多い日本の家電メーカーですが、実際のところはどうなのでしょうか?
ソニーが8月4日、2020年度第1四半期の業績を発表しました。売上高は1兆9689億円(前年同期比432億円増)、営業利益は2284億円(前年同期比 25億円減)というものでした。2012年には800円ほどまで落ちた株価は8000円ほどまでに上昇し、実は見事なV字回復をしているのです。
今回は、「時代遅れ」から「株価10倍」に至るまでのソニーの回復の内容を見ていきたいと思います。
ソニーV字回復の牽引役
ソニーの好調を牽引している要素でみなさんにも一番わかりやすいのは、「ゲーム事業」です。売り上げの3割以上を占め、営業利益の半分以上を稼ぎ出しています。巣ごもり需要のおかげで他分野が受けているコロナの打撃を吸収しています。
「ゲーム機『プレイステーション(PS)4』がそんなに売れているのか」と思う方も多いでしょうが、もう一つポイントがあります。それは、ゲームソフトのネットワーク販売への注力です。ソフトのセールスのうち、ダウンロード販売の比率は70%を超えています。ダウンロード版ですから、パッケージ版に比べて利益率も高いですね。
ゲーム事業は稼ぎ頭どころか、もはや「ゲームのソニー」と言える状況にまでなっています。ゲームは他の家電のように「機能」の類似商品の登場によって急激な値下がりがない商材です。売れるソフトを出し続けるというのは非常にきついミッションですが、それに見合った人材を集め、結果を出し続けているのです。
「いま○○が売れているから、それをいかに効率よく、高品質でマーケットに出すか」という日本の家電メーカーの従来型戦略とは大きく異なる形で成功を勝ち取っているのがソニーV字回復の大きな要因といえるでしょう。
もうひとつの要因は「ソニーの柱」
もう1点、気づかれにくい要因が、営業利益の4分の1ほどを確保する見込みの「金融事業」です。ソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行など一般の方からすると「新参者の金融サービス」という印象のあるこれらの事業が大きく寄与しているのです。
ソニーの貸借対照表をもとにしたグラフを見てみましょう。
負債に特徴があります。株主資本でもなく、借入金でもない「固定負債」の多さです。このほとんどがソニー生命の保険など顧客から預かっているお金です。また、「流動負債」の3分の1ほどもソニー銀行の預金となっています。これらを投資に回して利益を上げているのです。そしてそれはもはや「副業」とは言えない、ソニーの柱となっているのです。資産状況はもはや典型的な「金融事業」のそれと言っても過言ではないでしょう。
日本のメーカーは、日本の家庭の隅々にまで入り込み、「高品質で低価格な日用品」を提供し、日本人全体の生活の底上げを実現してきました。しかし、「日用品」はもはや主力商品としては厳しい分野です。ソニーはパソコン部門を切り離しました。パナソニック、シャープ、東芝などと同列に考えられているソニーですが現状は「一般家電」を扱う企業ではないと言えるでしょう。一般の印象とは大きく違った内実なのです。