何より、使い切りで簡単な食材に和えるだけとか、煮立ったら加えるだけという簡単さ。そして、そんな簡単調理にも関わらずお店のプロが作った料理かというように味が整うという、共働き世帯のリアルにありがたいソリューションを提供してくれています。
例えば「チョレギサラダ」。焼肉屋さんと言えば外食の代名詞のような存在ですが、意外とサイドメニューの豊富さにもワクワクさせられます。そんなお店で食べるものといったイメージだった「チョレギサラダ」(韓国風サラダ)も、サニーレタスに和えるだけ。あとは韓国のりをちぎり、ごま油をふりかければ出来上がり。しかも食べれば人気の秘密が分かる本格的な焼き肉屋さんのあの味です。
商品認知に頼らないユニークなブランディング
そして、もう一つの特徴が和洋中(姉妹ブランドの「菜館シーズニング」「FAUCHONシーズニング」含む)と、バリエーションがとにかく豊富なこと。しかもどんどん新製品が出てきます。
ネーミング自体は「SPICE&HERBシーズニング」と、何の主張も感じさせず、海苔を海苔と名乗って売るような淡白さです。
あえて言えば「シーズニング」という言葉が、「スパイスとハーブに、塩や調味料をブレンドしたもの」(S&Bホームページ)とありますが、一般的にはちょっと馴染みが薄く新鮮に感じられるかもしれません。でもその分間違いなく、ブランド浸透の評価軸である「商品名認知」で調査すれば絶望的に低いことが予測されます(選択肢式の助成想起ならばともかく、商品名を隠したパッケージ写真のみから商品名を言い当ててもらう純粋想起ではほぼ壊滅するでしょう) 。長いし、馴染みも薄いし英文字も入り分かりにくくて失敗例の極みというところなのですが、この製品に限っては、実際の店頭でまったく不都合がないのです。ここがブランディング戦略面で見ても、このシリーズのとてもユニークなところなのです。
そうなんです、このパッケージ。長方形で手に取るサイズのコンパクトなサイズと言い、お料理の仕上がりイメージと料理名のシンプルな構成と言い、まさにスーパーマーケットの店頭に置いてあるレシピカード。レシピカードに商品名はむしろ余分です。
レシピカードをそのまま買える新鮮さ
「今日なにを食べようかな」とスーパーをウロウロしているときにレシピカードの提案を見て、「そうだ今日はこれ作ろう」と決まる。裏を見れば、その料理に必要な食材が書いてあるのであとは調達するだけ。「調味料は?」もちろんこのレシピカード自体がそのまま調味料になるシーズニングなわけですから手軽です。
なるほど、この製品にもはや商品名はいらないのかもしれません。レシピカードそのものという製品の体裁自体がユニークで身近な存在としてしっかり認知されているのですから、もはや文句はありません。
そういう意味では、“名”ではなく何より“見た目で体を表す”なかなかユニークなブランディングをしている製品であることがわかるのです。しかもそのコンパクトさで神出鬼没。スーパーマーケットの食材コーナーなどあちこちに置かれやすく、タッチポイント戦略の視点からも秀逸です。
一方で、「SPICE&HERBシーズニング」シリーズ一式で大陳する什器も徐々に目に付くようになっており、バラエティの豊富さをブランド価値として一目で訴求しています。売れるから大陳でき、大陳されるからさらに売れる好循環と言えましょう。
どうしても保守的になりがちなスーパーマーケットを主戦場とするブランディングであっても、まだまだ新機軸が可能だと教えてくれる、まさに小粒だけどピリリとくる好事例のように思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら