今日から使えるロジカルシンキング

政府のコロナ対策を「戦力の逐次投入」と批判する無意味さ

苅野進
苅野進

 第29回 「戦力の逐次投入」の逆は「最初から全力投下」か

 政府のコロナ対策に対して、「戦力の逐次投入だ」という批判をよく見聞きします。「戦力の逐次投入」とはもともと軍事戦略用語で、ビジネスでも使われるようになったものです。これは、「戦力を小出しにしていった結果、小さな敗北が積み重なって大敗に至る」というものです。

 たとえば、相手が100の戦力を持っていて、こちらが500の戦力を持っていたとします。そこで、一気に500の戦力で攻めれば勝てるにも関わらず、一度に20ずつの戦力で攻め込むと、相手は100なので結局25連敗してしまうというものです。有名な事例は、太平洋戦争中の1942年8月から行われたガダルカナル島をめぐる戦いです。旧日本軍は米軍上陸部隊に対し、3度にわたる「戦力の逐次投入」をして大敗したというものが引用されることが多いです(実際には、1回目に日本の全兵力を投入しても勝てる見込みはなかったというのが通説ですが)。

 「戦力の逐次投入だ」という批判は後出しジャンケン

 今回の政府のコロナ対策も「後手に回っているのではないか?」「もっとしっかりと初期対策をしておけばよかったのではないか?」という点から「戦力の逐次投入をしている!」という批判の声が上がっているのでしょう。しかし、「戦力の逐次投入」という批判は実際のビジネスの現場ではあまり役に立たないものとして有名です。「あとから分析するとそう言える」だったり、「敗北の最終段階は必ず逐次投入という状況に陥る」というものだったりするからです。

 外野は「もっと早くにしっかりと」対策すべきだった、戦力を投入すべきだったという代替案によって批判をします。しかし、これは後から振り返らなければ分かりません。つまり、「戦力の逐次投入」が悪い戦略であったとしても、その逆の「最初から全力投下」がそもそもどのようなもので、どれだけ効果的なのかは現場における判断の時点では判明していないのです。

 また「全力」には副作用があります。新型コロナ感染拡大防止にともなう緊急事態宣言だったり、強制的な自宅待機を2月ごろから実施していたらどうだったのでしょうか? 6月まで続いていたら破綻が拡大したかもしれません。

 「戦力の逐次投入だ」という批判は、後出しジャンケンで「もっと早くやっておけばよかっただろう」というものですので、皆さんが今後何かの問題に取り組むときにはあまり役立ちません。「一気にカタをつける」ための戦略は後からの分析によって「適切な資源投下量」がわかるのであって、それがわからない状況で毎回「全力投下」で「社運を賭ける」なんてことはできないのです。

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