ブランドウォッチング

再会したいお土産の「北の横綱」 六花亭にみるブランディングの必要条件

秋月涼佑
秋月涼佑

 「バナリタ」の際立つ個性

 逆に言えば、各地全国市場ほどには大きくないパイを奪い合う、大変競争の激しい市場であることに間違いはなく、そんな中で一頭抜け出すには並大抵の苦労でないことは容易に想像がつきます。

 そんな中、衆目一致する各地の横綱級のお土産の中でも、北海道帯広市に本社のある「六花亭」のブランディングはいつも素晴らしいなと注目してきました。例えば、代表的な「マルセイバターサンド」。なんでもマルセイというのは明治時代北海道で初めて商品化されたバターに由来するそうで、お土産物にその土地ならではの文化や原料に根差したものを期待する気持ちにさりげなくアピールします。パッケージの「バ成タ」という文字から「バナリタ」と呼ばれるのもやはり個性が立っているからでしょう。一方で、個包装はハイカラな銀紙。そこに唐草模様が描かれた鮮烈な赤い帯で、レトロ感がありながらも決して古臭く感じないという絶妙なバランス感。もちろん会社などでも分けやすいという機能面での配慮も万全です。

 「六花亭」の製品は他の商品を見ても、あえての手書きで花、しかも野に咲く花を描いたり、ロゴの文字も手書きの書体だったりで、違う土地、特に都会の人間が北海道に期待するものを非常に良く理解しているように思います。

 誰からも拒絶されないことは、ブランディングの重要要件

 ブランディングというと、製品の魅力や良い部分を強く打ち出す戦略ととらえられがちなのですが、実はもっと地道な機能の方が大事だったりするのです。

 実はそれは、誰からも拒絶されたり、否定的に感じられないということです。しっかり個性があるけれど、誰も嫌ではない。特にお裾分け前提のお土産物であればなお、そんな安心感がぜひとも必要なのです。もちろん美味しいことが大前提ですが、それを体現できたブランドだけが、長年かけて「間違いのない」手土産という値千金の地位につけるというわけなのです。

 通販や催事を除いて、原則的に北海道以外で小売をしない方針の六花亭。この自粛期間は、SNSなどで通販の製品詰め合わせが話題になったりもしていました。

 早く、新千歳空港でまた出会える日を楽しみにしたいと思います。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)
秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら

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