講義中のカーディガンと立膝が決定打
そもそも、画面越しで話を聞いているときに「態度が悪い」ということなど本当にあるのだろうか。
面談ではその疑問もぶつけたという。すると人事担当者は具体的に彼の態度の悪い行動について次のように指摘した。
「吉田くんは、画面越しで顎の下が見えず、ちょっとはみ出している時がある。それに、ワイシャツの上にカーディガンを羽織っていたでしょう。ある講義では、立膝で話を聞いていた。態度が悪いんです」
しかし、それは絶対に誤解だと吉田くんは言う。
「たしかに画面内に自分の顔がすべて収まらないときはあったとは思いますが、それがなぜダメなのかわかりません。人事の方に『一時的に顎が映らなくなるのはマナー違反なんですか?』と聞いたら『そうだ』と言われました。また、寒かったのでカーディガンを羽織ったのですが、それも事前に伝えていないのでダメだと言われた。それから立膝で話を聞いていたというのは完全なる誤解で、そんなことはしていません」
さらに、入社前に課せられていた課題提出が遅れていたことも指摘されたという。
「これは、卒業旅行に出るので提出が遅れると事前に伝え、了承してもらっていました」と吉田くん。
しかし、会社から下された結論は変わらなかった。
研修しなくていいけど、出社はしろ
人事担当者はこう続けた。
「今のうちに転職すればなんとかなるでしょう。明日、正式に退職届を書類に記入してもらい、5月いっぱいの在籍とします。それから、明日以降はオンライン研修に参加しないでください。今日をもって研修用のアカウントは無効にします。ただ、出社しているという形はとってもらいたいので、社内チャットに毎日定時に“出社”と“退社”の打刻はしてください」
研修は受けられないにもかかわらず、毎日の出勤は課せられる。そして、自己都合か会社都合かを選ばせる形でのリモート研修中のクビ宣告。すべて入社1カ月の新人に襲いかかる事実としてはあまりにも耐え難い屈辱だろう。
「コロナ禍のいま、職務経験なしの僕を雇ってくれるところなどあるのでしょうか…。転職活動を開始しようにも正直不安しかないです」
「クラウドファンディングでプログラミングスクールに通いたい」
翌日、吉田くんは会社都合での退職を選び、気持ちを切り替えて新たな道を模索することにした。
その選択肢は…。
「エンジニアを目指すためのテックキャンプというスクールに通おうかと思っています。ただ、初任給もまだ入っていないのでお金がない。そこでクラウドファンディングで学費を集めようと思っています」
吉田くんによると、スクールの学費は70万円。これに加え、最新のMacBook Air14万8000円と、クラウドファンディングの手数料を含む約100万円を募集する予定だ。
「学費を支援していただいた方には、僕がアフリカ旅行に行ったときにもらった各国の小銭のお釣りや、旅の写真、あとは僕とお茶する権利を与えようと思っています。1万円以上の高額の支援を頂いた方には、僕が卒業したあとに制作したホームページに名前を載せるなど、僕を10時間自由に使ってもらう権利をプレゼントしようと思います」