第22回 「強み」の鍛え方と活かし方
老舗百貨店の雄である日本橋三越に家電量販店のビックカメラがテナントとして入店し、「ビックカメラ 日本橋三越」がオープンしました。「高島屋のとなりに高島屋の理由」では高島屋の戦略をロジカルシンキングの観点から分析しましたが、百貨店のショッピングセンター化、つまり不動産業化は進む一方です。
百貨店は平均して8割ほどが自営店舗ですが、百貨店化するとだいたい3割ほどにまで低下するそうです。つまり、その百貨店独自で競争力のある商品を用意できるのは全体の3割くらいということです。売り上げは2~3割増という状況からすると、百貨店としてもテナントとしても得意分野への「選択と集中」の戦略だといえますね。
日本橋三越がユニクロを選ばなかったワケ
問題解決の案を思いつくためのフレームワークに「SCAMPER(スキャンパー)」というものがあります。
- Substitute (代わりのものをつかう)
- Combine (組み合わせる)
- Adapt (適応させる)
- Modify (修正する)
- Put to other uses (ほかの使い道をする)
- Eliminate (取り除く)
Reverse・Rearrange (逆にする・再編成する)
これら7語の頭文字をとったものです。このなかでも「Combine:組み合わせる」は手軽に思える分、相乗効果が本当に生まれるのかが問われます。
「選択と集中」という戦略は強み(コアコンピタンス=Core Competenceと呼ばれます)を見つけて、資源を集中投下して差別化できるレベルに到達することを目指します。しかし、それだけでは足りません。その強みを誰と組んで、どうやってサービスとして成り立たせるのかを考えて、実際に行動できなければなりません。
日本橋三越は日本一のブランド力がある百貨店と言えるでしょう。イメージ通り、顧客には高齢の富裕層を抱えています。そして、弱みはそんな顧客層が買ってくれる商材の調達力ということでしょう。顧客層と商材調達力はリンクしているはずなのですが、弱みにならないうちに外部の力(ビックカメラの商品力)を使おうというのが三越の戦略ですね。
高額な家電の買い替えや新規購入の営業をしたいというビックカメラの思惑は合致している気がします。高齢富裕層は購買力のわりに家電への購入・買い替えモチベーションが低く、開拓の余地が大きいという仮説があるはずです。多くの百貨店が誘致している「ユニクロ」などは日本橋三越の考える選択肢ではないのでしょう。
鴻海が評価するシャープの「コア コンピタンス」
「選択と集中」そして「協業」の事例として注目したいのは、シャープの今後の戦略です。シャープが台湾の鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジーグループ)に買収され、業績が回復したというニュースは有名ですが、シャープが大きなヒット商品を開発したというニュースは聞きませんね。鴻海は経営が上手なのでしょうか?
実は鴻海はIT業界における「選択と集中」の鍵を握っている企業です。さまざまなIT企業が「企画・開発」を選択し、集中するのをサポートしています。つまり「製造」に集中しているEMS(Electronics Manufacturing Service)企業です。iPhoneもNintendo Switchも鴻海が製造しています。つまりAppleと任天堂が「選択と集中」をした上での「協業」の相手なのです。
シャープは工場も持ち、そして自社製品ももつ企業です。液晶テレビが有名で、「世界の亀山」とも呼ばれたその技術力の高さをアピールしていた亀山工場の生産ラインも自前でした。そんな企業を、鴻海は買収したのです。