遅刻しそうな時には、「申し訳ありません、10分ほど遅れてしまいそうです」ではなく、「申し訳ありません、人身事故で電車のダイヤが乱れ、10分ほど遅れてしまいそうです」と必ず理由を添えましょう。コミュニケーション上手な人は、今回の理論を知らなくても、自然とそうやっていますよね。これは出勤遅刻の常習犯の社員も、よく使う手です。「電車遅延で」「乗客トラブルで」。いくら“カチッサー”と言っても、使い過ぎにはくれぐれも要注意!ですよ。
なぜ経営者や識者は「その理由」を語るのか
デキる社長は、人が理由を求めるということを知っています。理由を告げなければ、社員や顧客のモチベーションは低下するということをよく分かっているのです。それが理由でミッション、ビジョンと言っているわけではありませんが、しかし、社員心理的にも、顧客心理的にも、「我が社はお菓子を売っている」、ではなく、「我が社は明るく会話のある家庭を増やすために、そのきっかけとなるお菓子を売っている」と言うのがグッと刺さるわけです。
本質的なこととして、私たちは意味や意義のあること、社会性や大義のあることに惹かれ、共鳴共感します。同時に、背景や理由がないものには、心理的にも腹に落ちない、納得や共感しにくいというメンタリティがあるのです。
半分冗談ではありますが、株価予測などのエコノミストや評論家の方々は、毎年毎年、よくあれだけ予想を外し続けていて仕事が続くなと思いますけれども、彼らはカチッサー理論的に、「もっともらしい理由を添えて景気の行方や株価予想を話していれば、それなりに仕事になる」と言ったら、言い過ぎでしょうかね?
ちなみに先ほどのコピーの実験には、おまけがあります。枚数が5枚のときは先の通りですが、枚数を20枚に増やした場合、要求のみのときの承諾率は24%であるのに対し、本当の理由を付け足したときの承諾率は42%。しかし、もっともらしいこじつけの理由を付け足したときの承諾率は24%にとどまってしまったのです。いくら“カチッサー”と言っても、調子に乗りすぎて過剰な要求をこじつけで通そうと思っても、そうは問屋がおろさない。そういうことですね、そこまで私たちはお人好しではないのです。重々気をつけましょうね。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら