第17回 決める技術〈基本2/2〉
ビジネスにおいて、「決めるのがこわい」というのは当然です。「この決断で未来が大きく変わる」という不確実性への不安が原因なのです。そこで前回は、この2つの対策について紹介しました。
- (1)決断後のBAD STORYから始まるプランを入念に準備しよう
- (2)工夫して小さい実験をしよう
今回は、自分の下す決断などが「相手にどのように判断されるかこわくて決められない」という状況を考えてみましょう。「上司になんて言われるか」「顧客がどう判断するか」を考えると決められない。日々の悩みとしてほとんどの人が多かれ少なかれ陥る状況だと思います。
相手が納得するような提案を作り上げるには? どの提案なら評価されるのか? 悩みは尽きないものです。色々な評価軸を設定して、点数化して判断するという手法も「何点をつけるのか?」という点で「決める」ことが求められます。
100点の決断など存在しない
前回おすすめした対策のひとつ、「決断後のBAD STORYから始まるプランを準備する」ともつながりますが、なされた時点でその後のストーリーがすべてうまくいくことが約束される完璧な決断などありえません。
「この提案は100点だ!」
そんな評価をしてくる上司や顧客がいたらむしろ要注意です。その後にトラブルが起きることを想定できておらず、いざという時に迅速に頭が回らないタイプだからです。
あなたが何を決断しようと100点ではないわけです。いくらでも難癖をつけるポイントは残ります。もちろんできる限り「想定外」を避けるべく頭を絞り、リスクの大小を評価していくのですが、どんなにブラッシュアップしたものであっても「提案」の成否はあなたのプランの採用時点では未知数です。採用された後に、あなたと上司と顧客の三者で成功に向けて進めていくのです。
そういう意味で100点を目指して悩んでもいつまでたっても決断できません。決断後の対応プランを重視しましょう。大事なことは「相手が100点だと満足する提案」ではなく、「相手と欠点について合意できる提案」を作り上げることです。
たとえば、「人事部に新卒採用のプランを提案する」という場面を考えてみましょう。
採用計画に対して、
- ・説明会の回数と内容
- ・面接の回数と内容
- ・送信メッセージの内容
などを「成功ストーリー」として美しく提案します。目的はもちろん「これなら採用計画が間違いなく実現する!」と感じてもらい、契約に持ち込むことです。しかし、提案を考えているといつのまにか「こうなったらいいな」という仮説の上にさらに仮説を乗せていくようなストーリーになっていきます。契約時は良いかもしれませんが、「間違いないプラン」などというものは存在しません。
仮説が崩れる可能性は必ずあります。
- ・説明会の日程が競合他社とかぶったら?
- ・辞退率が高まったら?
- ・他社の動きは?
経験のある人事部であれば必ず考えるべきことですが、そこまで頭が回っていないのです。採用が進み、計画通りにいかないときに臨機応変に対応することができず、「こんなはずじゃなかった」とか「話が違うじゃないか」といった思考停止とクレームにつながります。
提案者の役割は「100点の決断をする」ことではなく、もちろん「100点に見せかけるプレゼンをする」ことでもありません。80点で構わないので、残りの不確実な20点について正確に情報共有することなのです。
「共犯者」になってもらう
では、どのようにしたら問題が発生した時に「ほらいっただろ!」とか「聞いてない!」という“傍観的批判者”ではなく「よしきた!対処しよう!」という“当事者的賛同者”になってもらえるのでしょうか。それは、プラン立案の「共犯者」になってもらうことです。あなたがすべてを決断するのではなく、聞き手に決断してもらう余地を残しておくのです。