例えば、転職先の会社を選ぶ際に「ホワイト企業」や「働きがいがある会社」といった認定を受けている会社に興味を持つとします。しかし実際には「ホワイト」や「働きがい」といったイメージは漠然としていて、具体的に何を理由に認定を受けているのかは面接で知りたいはずです。そういう時に、採用担当者が「うちの会社はみんなが生き生き働いていて、福利厚生もよくて…」なんて話をしても、求職者本人が面接で知りたい情報ではありませんし、会社によってはHPやインターネット検索で知ることができる情報です。この場合、食い違いが生じる原因のひとつは、主語が大きいことです。採用担当者の話し方に問題があります。
そこで、採用担当者の話の主語を小さくしてみましょう。「同じ部署で働くトップパフォーマーの○○というスタッフは、仕事に前向きで面倒見もよく、自ら早朝の時間を後輩たちのために使っているんですよ。会議室を解放し、寺子屋のように、毎朝自分の部下以外も参加できる開けた勉強会を開催しているんです。そこには毎朝、会議室に入り切らないほどの若手が来ていて…」と話せば、求職者は、その会社の日々の様子や自分が働くかもしれない部署や人々の人柄にまで想像を膨らませることができます。そこに「会社としても、こういった活動は積極的に応援していこうということで、朝食の補助などを検討して、それが先週から実施されたところです」と付け加えると、調べればわかる情報や与えられている認定マークの厚みや信頼度がぐっと増すと思います。
日本人は何か質問された時に漠然とした内容で答えがちです。伝えることをリスクだと考えず、身近なことでいいので具体的なイメージにつながる話し方を意識してみて下さい。相手の食いつき方やリアクションも変わってきます。
自分の意思を乗せる
これも日本人に多いと言われているのですが、「~と思います」「~だそうです」「~と感じます」といった、断定を避けるような表現を語尾に用いてしまう癖をもつ人がいます。日本人は周囲の空気を読むのが得意で、それゆえに断定を避けて抽象的な表現を多用するようです。その上、話す時に表情筋の1割も使ってないとも言われています。これらを併せて、極端にいうと「無表情で抽象的な話をしている」ということになります。これでは自分が伝えたいことがほとんど伝わない、または誤解を招きかねません。
相手にスムーズに情報や感情を伝えるには、言い切るような語尾ではっきり、表情をつけて伝えることが有効です。経営者である私が、社員に戦略の説明をするときに、無表情で、「○○らしいです」「△△したいそうです」と推定や伝聞のような語尾を使ったら、全く伝わらないどころか不安を覚えさせてしまうと思います。会話の中の情報を意識しすぎて語尾にはなかなか注意がいかないことが多いですが、語尾を変えるだけでも話し方は変えられますし、印象も変えられます。
BOTにならない話し方
このように見てくると、話し方のスキル向上に難しい技術はあまり必要ないことがわかります。着眼点やニュアンスを変えるだけ、といった小さな改善で印象は大きく変えられるということです。
最後に私が意識していることを一つお伝えします。「BOT(ロボット)にならない」ということです。何を聞いても話しても毎回同じ返答、抑揚もない。そんな話し方では伝わりませんし、相手からも親近感を抱いて話を聞いてもらえません。
思っている以上に話し方というのは人となりを表しています。私は毎回相手の意見や感情を受け止め、それを後ろ向きに返すのではなく前向きに返すようにしています。それだけでも「物腰が柔らかい」「優しい」「ポジティブ」と言っていただくことが増えました。これはプライベートでも非常に有効で、話し方が上手い人はモテの傾向にあると思います。話し方のテクニックやスタンスを少し意識するだけで、2020年はもっと円滑なコミュニケーションを手に入れられるでしょう!
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら