「削り取る」ことを選択したユーザー
従来は一体となっていたサービスを分解して、必要な部分だけを効率よく提供していこうという新規参入者は既存のプレイヤーからあっという間にユーザーを奪っていきます。
高級フランス料理を「料理」と「サービス」に分解し、「料理」に徹底的にフォーカスしたのは「俺のフレンチ」です。座ってゆっくり楽しむのと当然セットだと考えられていた高級フランス料理から「座ってゆっくり楽しむ」を削りとることで「料理」の原価率を高めつつ採算の取れる業態を実現しました。既存のレストランからは「そんなものはフランス料理ではない」という叫び声があるはずですが、世の中のユーザーの多くはあっさりと立食サービスを受け入れたのです。
このようなサービスは既存のプレイヤーからは出てきません。自ら作り上げたサービスシステムを破壊することになるからです。
「ホテルに泊まるのにフロントサービスなんて必要ない」「部屋のみが重要」というユーザーは、従来のホテルからAirbnb(エアビーアンドビー)に泊まるようになりました。「運転手に訓練されたサービスなんて必要ない」「すぐに乗れることが大事」というユーザーはタクシーではなくUber(ウーバー)を使うようになります。既存のプレイヤーたちは「私たちには、新規参入者にはないノウハウやサービスがある」とアピールするのですが、ユーザーはそれらを削り取ることを選択しているので、簡素化されたサービスに違和感を覚えないのです。
「授業をしない学習塾」として有名な武田塾も「苦手部分の演習管理」といういわば塾の後工程に特化して業績を上げています。
自称“ものづくり立国”として世界と競争力を保持してきた私たち日本人は、ハードこそサービスであるという気持ちが強いものです。ソフトウェア産業を虚業として軽視してきた傾向があります。しかし、顧客に提供している価値をミクロの目で見て、分解した時に実はハードよりもソフトが求められているということは多々あるのです。ここを見誤ると、業界の収益性に影響を与える「5Forces(自社をとりまく5つの脅威)」のうちの「代替製品」や「新規参入者」が見えなくなりあっという間にユーザーを奪われることになるのです。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら