社会・その他

「4割が年収300万円以下」お寺経営の厳しい現実 20年後には3割消滅も

 寺院の修繕には最低でも5000万円以上かかる

 生活できる収入が確保できない寺院は、住職代替わりの時点で空き寺になってしまう。

 また伽藍の修繕の必要性に迫られた時に、破綻を迎える寺院も多い。台風や大雪、地震での破損、シロアリなどの害虫被害、屋根瓦の老朽化など、寺院建築は少なくとも30年に一度は大規模修繕が必要になってくる。伝統的な寺院の伽藍を補修するには最低でも5000万円。億を超える修繕はざらである。伽藍の建て替えになってくると、数億の出費は免れない。

 こうした修繕・建て替えの必要性に迫られた時、大勢の檀信徒を抱えていれば寄付で賄える場合もある。地域差もあるが、たとえば専業だけで寺族が食べていける檀家数の目安が300軒ほどであろう。すると、仮に補修費6000万円を集める場合、1軒当たりの負担は20万円となる。檀家が100軒しかない寺院の場合は1軒あたり60万円となる。

 これが半世紀も前であれば、積極的に喜捨する檀信徒も多くいただろう。しかし、「老後の生活費が公的年金以外に2000万円必要」とされる時代である。寺院の修繕に何十万円も寄付を出せるだろうか。

 昨年は台風で、伽藍が大きく破損した寺院や神社が日本全国で相次いだ。1年が経過した現在でも、その修繕費の確保に苦心しているとの話を聞く。

 檀家が50軒の寺院の修繕費は7000万円、私財投じても足りず

 ある京都市内の寺院は、本堂の修繕費として7000万円が必要になっている。この寺院は檀家が50軒ほどしかなく、資金が思うように集まらない。住職の貯蓄のすべてである2000万円を支出しなければならないという。また、本堂が文化財に指定されているため行政から最大1000万円ほどの助成金が出る可能性があるとしているが、それらを合わせても修繕費用の半分にも満たない。住職は途方に暮れている。

 宗門も各寺院の再建を手伝うことはできない。日本の寺院はそれぞれが宗教法人格を有する独立した存在だからだ。それに、宗門はその傘下に何千カ寺という数を抱えており、個別の寺院を再建させるだけの財源がないのだ。

 身も蓋(ふた)もないが、今のところ寺院や神社再建に「策なし」。しかし、「別に寺や神社がなくなっても生活に不便はない」という人もいるかもしれない。私自身、「残念ながら、寺社がなくなるのも、世の摂理なのかもしれない」と考えることもある。なぜなら、「社会に必要とされていないからこそ、寺や神社がなくなっている」と言えるからだ。

 寺院や神社は、仏教界や僧侶のための所有物ではない。

 死を迎える人や絶望した人への寄り添いの場であり、先祖供養を通した情操教育の場でもあり、都会の寺は憩いの場でもある。災害時には避難所にもなり得る。

 寺院消滅は避けられないかもしれない。しかし、「完全消滅」を避けるためにも仏教界は公益性を自覚し、社会に広く門戸を開き、社会的機能を果たしていくことが必要だろう。

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 鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)

 浄土宗僧侶/ジャーナリスト

 1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)など。近著に『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、12月20日発売)。一般社団法人良いお寺研究会代表理事。

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 (浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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